脳内の繁殖状態センサーニューロンを発見

岡 良隆(生物科学専攻 教授)

長谷部 政治(生物科学専攻 博士課程1年)

神田 真司(生物科学専攻 助教)

 

 



動物の卵巣や精巣などの生殖腺は繁殖期になると発達し,卵や精子の成熟と共に性ホルモン(女性ホルモン・男性ホルモン)を分泌するようになり,同時に動物は繁殖期に特有の性行動を示すようになる。これらの調節には,神経系と内分泌系がうまく協調してはたらくことが必要であり,そこでは性ホルモンが重要なはたらきをすると考えられている。しかし,性ホルモン分泌に応じて繁殖期特有の行動を制御するしくみはわかっていない。

ヒトを含む哺乳類において生殖機能の調節に必須な生理活性 物質キスペプチンを分泌する「キスペプチンニューロン」は, 2000年代に入り世界中の研究者から注目された。私たちはメ ダカの脳で2008年にキスペプチンニューロンを発見し,研究 を進めてきた。最近,私たちのメダカを用いた研究の成果など から,真骨魚類において,キスペプチンは直接的な生殖制御機 能をもたないが,キスペプチンニューロンは脊椎動物全体に共 通する特徴,すなわち,性ホルモンの受容体をもち,性ホルモ ン刺激によってその遺伝子発現を変化させることがわかってきた。今回,私たちは,キスペプチンニューロンだけに緑色蛍光 タンパク質GFPが発現するように遺伝子改変したメダカを作製して実験に用いた。メダカは季節繁殖性が明瞭な動物であり,昼夜の長さを変えるだけで繁殖状態を制御できるため,繁殖状 態に応じてキスペプチンニューロンが出す電気信号の変化を効 率よく調べることができる。また,メダカの脳は小さく透明性も高いため,神経回路を生体内に近い状態に保持した脳を丸ごと取り出して実験用容器に入れて,厳密な神経活動の解析を行える。これは,マウス・ラット等の脳では不可能な実験を可能にする点で特筆すべきである。取りだした丸ごとの脳で,キスペプチンニューロンをGFP蛍光により1個1個識別しながら, 神経活動を電気記録した。昼が長い条件で飼育し繁殖状態にし たメダカは,キスペプチンニューロンが全般的に高い神経活動を示す一方で,昼が短い条件で飼育し非繁殖状態にしたメダカでは,大半のキスペプチンニューロンが低い神経活動を示していた。さらに,キスペプチンニューロンの脳内軸索投射を,GFPに対する免疫組織化学を併用して詳細に解析することで,それらが本能行動や恒常性の制御に関わる脳領域(視索前野)に情報を伝えることもわかった。



  メダカにおけるキスペプチンニューロンの繁殖期に特有な生理機能制御を示す模式図。非繁殖期には視床下部NVTに存在するキスペプチンニューロン(NVT Kiss1ニューロン)の遺伝子発現は低く,繁殖期には高くなることがわかっていたが,キスペプチンニューロンの神経活動頻度も図のように変化することから,キスペプチンニューロンが繁殖状態のセンサーとしてはたらくことで,繁殖期特有の行動調節などに関わっていることが考えられる。

これらの結果より,繁殖期になって分泌の上昇した性ホルモンを受容したキスペプチンニューロンの遺伝子発現・神経活動が活性化され,脳内のキスペプチン分泌が促進されることが考えられる。私たちの最近の研究から,キスペプチンニューロンは本能行動や恒常性,社会行動などに関わるとされる神経機構を制御することが示唆されており,これらが繁殖状態のセンサーとしてはたらくことで,繁殖期特有の行動調節などに関わっているのではないだろうか。

本研究は,M. Hasebe, et al., Endocrinology . 155, 4868‒ 4880(2014) に掲載された。

(2014年12月1日プレスリリース)



学部生に伝える研究最前線>

 

 

 

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