ヨーロッパで,太陽の「雲」を探る

金子 岳史(地球惑星科学専攻 博士課程1年)


  ブルージュの景色

みなさんは雲と聞くと何を思い浮かべるだろうか?地球人の我々にとっておなじみなのは空に浮かぶ水と氷でできた白くてモクモクしたアレであろう。実は太陽の上空にも「雲」が現れる。太陽の外側には,コロナという100万度の非常に高温なプラズマ大気が広がっているが , その中に浮かぶ低温プラズマの塊が太陽の「雲」たるプロミネンスである。低温といっても温度は1万度もあり ,我々の知っている雲とは程遠い存在である。太陽の場合 , コロナプラズマの一部が何らかの原因で光を大量に放射するようになり,熱エネルギーを失うことで低温化し , プロミネンスになると考えられている。私の研究はプロミネンスの形成メカニズムを数値シミュレーションによって解き明かすことである。

ベルギーのルーヴェン・カトリック大学(KU Leuven)に所属するロニー・ケッペンス(Rony Keppens)教授のグループは太陽プロミネンスに関する最先端のシミュレーション研究を行っている。私の修士課程の研究は新たな太陽プロミネンス形成モデルの提案とシミュレーションによる実証であったため, このグループと一緒に研究することは夢であった。幸い数物フロンティア・リーディング大学院から旅費補助をして頂けることになり, ケッペンス教授にも滞在を快諾して頂いたため, この夢は3カ月の滞在として実現することとなった。

しかし私は海外旅行の経験は一度しかなく, 海外一人旅は初めてであった。始めのうちは慣れない英語での生活に四苦八苦した。床屋で丸坊主にされてしまったのは今では良い思い出である。1ヵ月ほどたつと週末にちょっとした旅行もできるようになり, 世界遺産に登録されているブリュッセルやブルージュ ,「フランダースの犬」の舞台であるアントワープなどを観光し, 中世ヨーロッパを思わせる建造物や風景を満喫した。ちなみにほとんどのベルギー人はフランダースの犬を知らない。日本ではあまりに有名な作品であるだけに, カルチャーショックを受けた。


  左奥:グーセンス(Goossens) 教授 , 右奥:ケッペンス(Keppens) 教授 ,
左手前:ヘンドリックス(Hendrix) さん , 右真ん中:私 , 右手前 : シャ(Xia)博士

滞在中は週1回のグループミーティングに参加し,お互いのシミュレーション結果を報告しながら新たな形成モデルの物理過程について議論を重ねた。セミナーも週1回開かれており, ドイツやスペインなど,他のヨーロッパの国々から来た研究者の講演を聴く機会もあった。ベルギーは,EUの本部が置かれていることもあり,外国人の数は非常に多かった。留学生やポスドクはヨーロッパのみならず世界各国から集まっていた。彼らとの会話で印象に残っていることは,自国で起きていることをまず国際的な視点で語ってみせる姿勢であり, 日本には無い非常にインターナショナルな雰囲気を経験することができた。

思わぬ幸運もあった。わたしのシミュレーションは太陽プロミネンスの形成過程を探ることが主目的なのだが, 副産物として, 磁場の強い大気中に特徴的な波動現象が現れることを突き止めていた。セミナーでこの結果についても紹介したところ, 太陽の波動現象が専門のマーセル・グーセンス(Marcel Goossens)教授に興味を持って頂き, 共同研究を行うことになった。このように思わぬ新たな展望が開けることも海外で研究を行う醍醐味なのだと思う。

今回のベルギー滞在は研究の面でも,自らの見識を広げるという意味でも非常に有意義なものとなった。最後に, 今回の留学をサポートして頂いた東京大学とルーヴェン・カトリック大学の方々, 日本から応援してくれた家族と友人に心から御礼申し上げたい。

 

 
2012年 東京大学地球惑星物理学科 卒業
2014年 東京大学大学院理学系研究科
地球惑星科学専攻 修士課程修了
現在 同研究科博士課程在籍

 

 


遠方見聞録>

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加