天文学者の卵, 思うところあってウェブ業界へ

佐々木 明(ヤフー株式会社 )


PROFILE

東京大学理学部天文学科 卒業
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻
修士課程修了
ハイデルベルグ大学にてPh.D. 取得
ヤフー株式会社入社
2009年
2011年

2005年
2015年

 

 

大学院生として最後に参加した南アフリカ共和国(ケープタウン)の研究会でペンギンたちと

学部,修士を東大で修了後,給料がもらえることに魅力を感じ,ドイツに渡った。修了後は,研究を続けたい気持ちはあったものの,アカデミックな就職先の少なさや自分の研究者としての能力に限界を感じ,新卒のうちに企業への就職を目指すことにした。プログラミングの経験が活かせると思い,理学系の博士の採用実績があるIT企業の技術職を中心に就活した。

現在の仕事は,ウェブ検索サービスを改善するために,会社独自のKnowledge Baseをつくることだ。Knowledge Baseとは「東京は日本の首都である」というような事実を,コンピューターで扱えるような構造化された形式で保存したデータベースである。流行りの音楽から,人気のレストランまで,世の中のモノゴトについてのさまざまな情報を統一的な形式で扱うことができれば,ウェブ検索やネットショッピングなどのサービスを今よりも飛躍的に改善することができる。

増大していくいっぽうのウェブ上の情報を,いかにうまく収集して,事実の正しさを担保し,どのようにKnowledge Baseを更新していくべきか。それは,誰も正解を知らない,難しい問題だ。この問題は活発に研究されているテーマの1つのため,業務の一環として最新の情報科学分野の論文の調査をすることも多い。

大学院で専攻していた理論天文学とは,全く関連がない職へつくことになったが,大学院では星ができる物理過程を表す数式を計算機で数値的に解いていたので,その際のコードの開発経験やコードが意図しない動作をしたときに問題を切り分ける経験などは役立っているように思う。また研究室内で研究の進捗について相談したり,研究会で発表したりした経験は, 会社に入ってからも, チームで課題に取り組むときに自分が抱えている問題を説明する際に役に立っているのではないだろうか。

大学院時代と就職後でもっとも変わったのは,会社では一人ではなくチーム単位で仕事をすることが多い点だ。プログラミング1つを取っても,ウェブ業界では,コードレビューといって,誰かが書いたコード(プログラム)を他の人が読んで,バグがないか,分かりやすいコードになっているか,確認しながら開発していくのが一般的だ。レビュー時に初めて,自分が書いたコードの不具合や自分のアルゴリズムに対する理解の誤りに気づかされることが少なくない。

ウェブ業界は,歴史が浅い分,変化が速く,数年で転職する人も少なくない場所だ。その分,数年で部下を率いる立場になる人もいる。(もっとも,修士で就職した理学部の同窓生が,会社で自分の上司になったのには,閉口した!) 仕事のほかに,ハッカソンというプログラミングコンテストで仲間と趣味でアプリなどを開発して技量を磨く人も多い。この文章の読者の多くは,かつての私のように,就職ではなくサイエンス分野の研究者を目指している人たちだろう。ぜひ自分が決めた道を邁進してほしいが,もし自分のキャリアに疑問を感じることがあれば大学の研究室の外にも,優秀な若者たちが切磋琢磨しながら,従来存在しなかったものをつくることができる舞台があることを心に留めてほしい。宇宙の始まりを探るのと同じくらい,わくわくするような挑戦をネットの海は可能にしてくれる。

 

理学部ニュース2017年5月号掲載



理学から羽ばたけ>

 

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