パタゴニア・タラバガニ


本原 顕太郎(天文学教育研究センター 准教授)

 

僕が,アタカマ砂漠にある標高5600mの山の上に大型赤外線望遠鏡を建設する東京大学アタカマ天文台プロジェクトに関わって,チリに行くようになってからかれこれ15年になる。大抵は首都サンチャゴを素通りして,砂漠のオアシス村であるサンペドロ・デ・アタカマのベース基地に直行してしまうので,僕にとってチリといえば,乾燥で鼻血を出しながら肉料理を食べ,そこら中うろうろしている野良犬の糞を踏まないよう注意して歩かないといけない場所,という認識だ。

しかし,「チリにはパタゴニアというすばらしい場所があって,そこは桃源郷のように来る人々を迎えてくれるらしい」といううわさが在チリの知り合いから漏れ伝わってくる。とは言っても,僕の専門である赤外線天文学は乾燥した高い山で観測をするので,パタゴニアとはまずご縁はないやろうと思っていた。

というわけで, 2016年11月に東京大学がチリ大学・カトリカ大学と共催した,パタゴニアでの日本・チリ学術フォーラムはまさに渡りに船だった。もちろんフォーラム中に開かれたワークショップの世話人を双手を挙げて引き受け, 12時間の時差があるチリ側との調整を半年以上かけて粘り強く進めて準備も万端に整え,いざパタゴニアへ!

パタゴニア滞在中に食べたカニ料理の数々(の一部)

パタゴニアは,都市の名前ではなく,南米大陸の最南端の総称である。フィヨルドが入り組んだ険しい地形にアルゼンチンとチリの領土が入り組んでいて,チリ・パタゴニアの入り口であるプンタアレナスまでは飛行機で飛ぶ。そこからフォーラムの開催地プエルト・ナタレスまではバスで2時間の移動である。フォーラムは5日間開催されたが,その間にもパイネ国立公園へのエクスカージョンがあり,フォーラム後は南米最南端(すなわち世界最南端)の町であるプエルト・ウィリアムズへの視察もあって,チリ・パタゴニアはほぼ制覇した。パタゴニアは南極圏が近いこともあり,夏でも風が冷たくて防寒は欠かせないが,風光明媚なフィヨルド地形の雰囲気は北欧そのもので,僕のイメージにあるチリとは全くの別世界だった。さらに,百見は一食に如かず,パタゴニアに行ってみて最大の発見はカニである。何はともあれカニである。どこのレストラン行ってもカニ料理がある。もちろんすべて生である。プンタアレナス空港のカフェでもハムサンドとほぼ同じ値段でカニサンドが売っていて,そのそばでは冷凍カニ1キロがお土産として売られている。見た目はタラバガニで,肉厚の身にその味までタラバガニである。帰国してからネットで調べてみると,これは南タラバガニ(Lithodes santolla)という南米に分布するタラバガニ科の一種で,最近は日本にも食用として輸出されているらしい。というわけで,滞在中は狂ったようにカニ料理を食べまくって,大いに満足して帰国した。

蛇足になるが,途中,ビーグル海峡を見渡す気持ちのいい草原に行ったら野犬の糞がそこら中に落ちていて,やっぱりここはチリなんだなあという実感とともに現実に引き戻されたのであった。

 

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