ツメガエルの全ゲノム解析から見える進化

近藤 真理子(臨海実験所 准教授)

平良 眞規(生物科学専攻 准教授)

 



DNAに記録されている全塩基配列を明らかにする「全ゲノム解読」はさまざまな生物で行われていて,生命科学の基本的なデータベースとしてその発展に大きく貢献している。またゲノムの中には,それぞれの生物の進化の歴史が残されているため,生物進化の解析にも重要である。

多くの動物は二倍体で,父方と母方から1つずつゲノムを受け継いでいる。しかし,今回われわれが全ゲノム解読をしたアフリカツメガエル(学名Xenopus laevis)は「異質四倍体」である。これは2種類の祖先種が異種交配したあと染色体が倍加して全ゲノム重複が起こったものである。異質四倍体がもつ,祖先種それぞれから由来したゲノムを「サブゲノム」といい,祖先種それぞれに由来した良く似た対になる染色体を「同祖染色体」という。アフリカツメガエルでは2本の同祖染色体の間で長さが異なり,長い方をL(long)短い方をS(short)とする。アフリカツメガエルの18本の染色体を近縁の二倍体種のネッタイツメガエル(Xenopus tropicalis)と比較すると(図A),ネッタイツメガエルの1つの染色体(XTR1など)にアフリカツメガエルの同祖染色体の1対(XLA1LとXLA1Sなど)がきちんと対応することが分かった。さらに,興味深いことにゲノムの中には痕跡として残されていた種々の「化石化した配列」の中に,同祖染色体のL(XLA1L, XLA2L,,,)あるいはSのセット(XLA1S, XLA2S,,,)に偏って存在するものが見つかった。このことは同祖染色体のLとSのセットがそれぞれサブゲノムに相当することを示している(図B)。そこで,対応するサブゲノムをLとS,それらが由来する祖先種をLとSと命名した(図B)。それを基に,祖先種LとSが分かれたのが約3400万年前であること,それらが雑種交配して全ゲノム重複し異質四倍体になったのが約1800万年前と比較的最近であることが明らかとなった。

サブゲノムが同定され,しかも祖先種由来の染色体セットが互いに混ざり合うことなく今日に至っていることで,全ゲノム重複後のサブゲノムの変化の全体像を初めて解析できるようになった。祖先種LとSはすでに絶滅しているので,比較対象としてネッタイツメガエルの染色体(XTR)(図B)を用いた。図Aで示すように,アフリカツメガエルの染色体(XLA)のLがXTR と良く似ており,Sでは大きな逆位が幾つも生じていた。異質四倍体化の当初はLとSの遺伝子数は同じはずだが,1800万年の間にその4割程度はどちらか一方からなくなり、そのなくなり方はSの方が多かった。LとSとの間では遺伝子の発生過程における発現の時期や成体組織での発現場所に違いが見出されるものもあった。このように全ゲノム重複後のサブゲノムの進化は非対称的に起こることが初めて示された。

ツメガエルの染色体とその進化。
(A)ネッタイツメガエルの染色体(XTR1など)とアフリカツメガエルの同祖染色体の対(XLA1L, XLA1S など)との比較。XTR9とXTR10 は染色体融合したXLA9_10に対応。横の線は対応する同じ遺伝子を示す。青い実線,XTRとLとSの両方に対応;青い点線,XTRとLが対応;青い破線,XTRとSが対応;赤い実線,LとSが対応(XTRとも対応しているがここでは省略)。XTRとLの遺伝子の並びは良く保存されている一方,Sでは大きな逆位がみられる(縦の両矢印)。Session et al.,(2016)を改変。
(B)異質四倍体化とサブゲノム。ゲノムには「転位因子」という独自に増幅する特殊なDNA配列がある。種Lと種Sで異なる転位因子が増幅してゲノム全体に広がったが異質四倍体化(*印)の前に「化石化」した。

 


Xenopus属で二倍体種はネッタイツメガエルとその亜種のみでアフリカ大陸赤道付近にしか生息しないのに対し,異質四倍体種はアフリカツメガエル以外にも幾つもあり,赤道付近からアフリカ南端にまで広がって生息する。したがって異質四倍体となったことで生息域を広げながら種数を増やして行ったことが想像される。その要因となったゲノムの特徴は何であったかは今後の興味深い研究課題である。

今回のサブゲノムの比較解析は, 5億年前の脊椎動物の祖先種でおきた全ゲノム重複がどのようなものであったか,それが脊椎動物の繁栄をいかにもたらしたのかを読み解く鍵になるものと考えられる。

本研究は,Session et al. Nature 538, 336-343(2016)に掲載された。

(2016年10月20日プレスリリース)



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