「クライトン 生物無機化学」

塩谷 光彦(化学専攻教授)


Robert R. Crichton著
(塩谷 光彦 監訳)
「クライトン  生物無機化学」
東京化学同人(2016年)
ISBN 978-4-8079-0887-5

「生物無機化学」について,国会図書館で検索したことがある。意外にも,「生物無機化学」の書は,すでに昭和初期に湯島の金原商店(現在,金原出版株式会社)から発行されていた(東 恒人著,1929年(昭和4年)発行,四圓五拾錢)。一部の内容を講義で紹介したことがあるが,今や当たり前の生体分子の構造がまったく異なっていたりして興味深い。研究者の生物への強い探究心に加えて,分子の構造や機能を解明する観測・測定・計算技法の革新的進歩が重なって,この昭和初期から現在までの間に「生物無機化学」は指数関数的な発展を遂げてきた。

生物のしくみにかかわる金属を含む分子構造や機能は,錯体化学や生化学だけでなく,医薬学,物質科学,エネルギー科学などにも密接に関連しており,広がりと深さのある学問領域を形成しつつある。本書は,これまでの生物無機化学関連の書に比べて,構造生物学や生化学的視点からの記述が多く,脳内の金属イオンの挙動,パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患と金属イオンとのかかわり、カドミウムや水銀による環境問題にかかわる記述などは新鮮である。また冒頭から,不思議の国のアリスやウィットに富んだ記述も随所に登場し,一般的な読み物としても面白い。本書を通して生物を理解するだけでなく,新しい分子構造や機能への発想のヒントも得られそうである。幅広い分野の学生や研究者には,是非手にとっていただきたい書である。

 

 




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