タンパク質立体構造から分かった糖の輸送メカニズム

李 勇燦(生物科学専攻 博士課程1年生)

濡木 理(生物科学専攻 教授)

 


あらゆる細胞は,外界からエネルギーを取り込むことで生命を維持している。細胞が取り込むエネルギーの中でも,最も基本的なものがブドウ糖やショ糖などの糖(もしくは炭水化物)である。ヒトは小腸で消化産物から糖を取り込み,それらを血流に載せて体中の細胞へと運搬する。また植物は光合成によって葉で糖を作り出し,それらを篩管(しかん)を通じて根や花などの細胞に運ぶ。

この様な糖輸送の過程において,糖分子は細胞を覆う細胞膜を通過する必要があるが,この細胞膜は疎水的な性質を持つため,親水的な性質を持つ糖分子はそれ単独ではこの細胞膜を自由に行き来することは出来ない。そのため,糖分子がこの細胞膜を通過するためには,細胞膜上に存在する糖輸送体と呼ばれるタンパク質の助けを借りる必要がある。ごく最近になり,SWEETと呼ばれる新しい糖輸送体ファミリーが発見され,細胞からの糖の排出に働いていることが明らかになった。しかしながら, SWEETがどのようにして糖の輸送を行っているのか,その分子レベルでのメカニズムはよく分かっていなかった。

そこで私たちはSWEETによる糖輸送のメカニズムを分子レベルで解明すべく,その立体構造を研究した。まず私たちは,大腸菌に由来するSWEETファミリータンパク質であるSemiSWEETに着目した。SemiSWEETの立体構造を決定するため, SemiSWEETタンパク質を大量に作り,高純度に精製した。さらに,この精製タンパク質を特定の条件に置くことでタンパク質分子が規則的に並んだ結晶を作製した。この結晶から, X線結晶構造解析と呼ばれる手法によって, SemiSWEETの立体構造を「内向きに開いた状態」と「外向きに開いた状態」の2つの状態で解明することに成功した(図)。

この立体構造から, SemiSWEETは二量体を形成しており,その二量体分子の中央に糖を結合するポケットがあることが分かった。またこの分子中央のポケットは,「内向きに開いた状態」と「外向きに開いた状態」において,それぞれ細胞の内側,外側に露出していた。したがって,細胞の内側,外側のいずれかからSemiSWEETのポケットへ結合した糖は, SemiSWEETが構造変化を起こすことによって細胞膜を越えた反対側へ露出され,これによって細胞膜を通過できることが明らかになった。  今回明らかとなった糖の輸送メカニズムは,将来私たちが細胞の栄養輸送プロセスをより良く理解し,それをうまく利用するための応用研究へつながることが期待される。

   
今回解明したSemiSWEETの立体構造。上段に「内向きに開いた状態」,下段に「外向きに開いた状態」の構造をそれぞれ示した。断面図を見ると,分子の中央にあるポケットがそれぞれ細胞内,細胞外に開いているのが分かる。


本研究成果は, Y.Lee et al.Nat.Commun6 ,6112 (2015) に掲載された。

 

 

(2015年1月19日プレスリリース)



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