理学部紹介冊子
物理学専攻の牧島一夫教授が日本学士院賞を受賞
中澤 知洋(物理学専攻 講師)

牧島 一夫教授
注:牧島教授は2015年3月に本学を定年退職され,現職は理化学研究所グローバル研究クラスタ研究顧問です。
このたび,理学系研究科物理学専攻の牧島一夫教授注が,日本学士院賞を受賞されることが決まりました。この賞は,ノーベル賞受賞者はじめ多くの偉大な先達が名を連ねており,恩師である牧島先生のご受賞を心よりお慶び申し上げます。
牧島先生の受賞は「X線観測による中性子星の強磁場の研究」によるものです。半径10kmあまり,つまり山手線の範囲ほどの中に,太陽一個分の重さが閉じ込められている中性子星は,重力で圧縮された核物質の塊です。これがどのような性質を持っているのか,牧島先生は宇宙X線観測の立場から研究されてきました。
中性子星は,星の最期の大爆発の中で生まれます。親星の何もかもを圧縮して誕生する中で磁場もまた激しく圧縮され,108-12 Tにも達する場合があります。ここに周囲からガスが落ちてくると,磁場の力で磁極に集中して降り積もり,中性子星の表面に衝突して激しく加熱し,強いX線を出します。このX線に現れる特徴的な波長を用いて中性子星の表面磁場を測る技法は,牧島先生が世界を先導して切り開いてこられました。
この磁場は,超伝導電流で作られるのか,核物質のスピンで作られるのか,観測データが足りずまだ決着していません。牧島先生はこの問題に取り組み続け,最近では中性子星の自転に現れる「自由歳差運動」の観測から,その形状の歪みを捉えることに成功しました。これは,中性子星の内部に隠された磁場を推定する全く新しい技法で,これまでの不可能を可能にしたすばらしいアイデアです。牧島先生の創意工夫,卓抜な発想力,想像力のすごさを見た思いがしております。先生は2015年3月で東京大学を退職されましたが,まだまだ宇宙研究の最前線を切り開いてゆかれると思います。