理学部紹介冊子
2015年度文部科学大臣表彰
科学技術賞・若手科学者賞を3名が受賞
広報誌編集委員会
![]() |
菅 裕明教授 |
![]() |
ラウレアン・イリエシュ准教授 |
![]() |
井出口 拓郎助教 |
2015年度科学技術分野の文部科学大臣表彰が発表されました。理学系研究科からは,菅教授が科学技術賞(研究部門)を,イリエシュ准教授と井手口助教が若手科学者賞を受賞しました。この表彰は,科学技術に関する研究開発,理解増進等において顕著な成果を収めた方に与えられるものです。
菅裕明教授(化学専攻)は,業績「特殊ペプチド創薬イノベーション研究」による受賞です。ペプチドリーム株式会社のリード(Patrick C.Reid) 博士との共同受賞です。近年,製薬業界で活発に開発されている抗体医薬品などのバイオ医薬品は,従来の低分子医薬品にはない優れた特性を多くもっている一方で,細胞透過性が低く対応できる標的が制限されるといった問題点も抱えておりました。そこで,低分子でもなく抗体でもない,両方の特性を併せもつ次世代型バイオ医薬品の誕生が望まれています。多彩な生理活性を示す生体分子である中分子量ペプチドは,その候補の一つではありましたが,その生体不安定性や人工の生理活性ペプチド開発の困難さから,汎用性の高い創薬分子として利用されることは,これまでほとんどありませんでした。
菅教授は,既存の常識を覆す「特殊ペプチド創薬」という概念を提唱し,望みの活性を示す人工ペプチド分子を生み出すオンリーワン技術の開発に成功しました。この手法を使うと,1兆種類を超える創薬候補を数時間で合成し,この中からわずか数週間で目的の活性種を発見することができます。本技術は世界中の製薬業界から大きな注目を浴びています。
ラウレアン・イリエシュ(L.Ilies) 准教授(化学専攻)は,業績「鉄触媒を用いた炭素-水素結合活性化反応開発の研究」による受賞です。資源として豊富に存在し,毒性が極めて低いにも関わらず,これまで有用性が認められていなかった鉄の触媒作用に着目して研究を進め,汎用性の高い炭素-水素(C-H)結合活性化を伴う炭素-炭素結合(C-C結合)生成反応を開発しました。鉄の化学には多様なスピン状態と素早い系間交差がつきものであり,このことが有機鉄触媒化学の発展を妨げてきました。イリエシュ准教授はこの問題に果敢に取り組み問題解決の糸口を掴み,このことが今回の受賞につながりました。本研究により得られた成果は,基礎学術分野の観点から興味深いだけでなく,持続性社会の構築という全世界が直面する課題の解決に貢献するものです。
井手口拓郎助教(化学専攻)は,業績「光周波数コムによる超高速分子分光の研究」による受賞です。現代レーザー技術の結晶とも言える画期的な光源である光周波数コム(2005年ノーベル物理学賞受賞技術)を用いた超高速かつ超精密な分光技術の開発に大きく貢献する業績を上げました。
繰り返し周波数の異なる2台の光周波数コムを用いることで,広い範囲のスペクトルをマイクロ秒の時間スケールで測定する手法は,分子分光の新手法として極めて大きな注目を集めています。井手口助教はこの手法の原理を,ラベルフリーのイメージング技術として近年注目されている非線形ラマン分光に適用しました。達成した高速性能は,従来技術に対して1000倍も速いものであり,当該分野に革新的なブレイクスルーをもたらしました。この技術は汎用性の高い測定技術であることから,複数分野の研究者から注目を受けており,今後様々なアプリケーションを生み出すことが期待されています。
※この文章は,後藤佑樹助教(化学専攻,菅教授記事),中村栄一教授(化学専攻,イリエシュ准教授記事),合田圭介教授(化学専攻,井手口助教記事)がそれぞれ執筆されたお祝い原稿を広報誌編集委員会で再編集したものです。