理学部紹介冊子
シンガポールで踏み出した一歩
磯江 泰子(生物科学専攻 博士課程3年生)
研究のために海外に飛び出して得られるものは,研究成果や語学力だけではない。修士2年次にシンガポール国立大学(National University of Singapore) にて開かれたワークショップに参加したことをきっかけに,私はフットワーク全体が軽くなったように思う。
私が所属している研究グループはメダカを使った研究をしており,メダカのリソースセンターがある基礎生物学研究所との共同研究をいま現在も多くしている。基礎生物学研究所の成瀬清先生と,長年の付き合いのあるC・ウィンクラー(Christoph Winkler) 先生(シンガポール国立大学)が共催する「メダカとゼブラフィッシュに関するワークショップ」がシンガポール国立大学で開かれると2012年の春に聞いた。当時の私は,海外志向が高い割に,まだ海外のラボとの共同研究の段階には至っておらず,性格的にもそこまで社交的ではなかった。ワークショップは同世代の学生が集まるので先生達に比べて話しやすいかもしれないし,話せなかったとしても,少なくとも技術は学べるだろうという気持ちで挑戦した。

話は戻るが,メダカは古くから日本人に愛されている小型魚類で,「目高(由来は眼が高い位置にあるから)」の記載が江戸時代の庶民の暮らしに関する文献にあるほどだ。近年は発生や生殖,そして社会性行動のモデル動物として,メダカは驚くほど広く海外でも研究対象として使われている。ワークショップにもドイツ,フランス,イタリア,オーストリア,ノルウェイ,オーストラリア,ロシア,アメリカ,カナダ,インド,中国,マカオ,日本から学生15人が集まった。
日曜日に到着してウェルカムパーティーが開かれ,少し緊張がほぐれたのも束の間,月曜日から土曜日までは怒濤のサイエンスな時間が流れた。朝8時半に集合し,朝ご飯を大学で頂き,9時から昼食をはさんで17時まで実験をこなした。その後2時間の講義(国立シンガポール大学で魚類を使っている先生方からの研究セミナー),夕食,そして再び実験を22時までという,なかなかのハードスケジュールであった。実験は班に分かれて協力して進めたので必然的に学生同士で話す機会が多く,世界共通の「ラボあるある」な話で盛り上がったのが懐かしい。
次の週の日曜日の午後, 遂に自由時間が与えられ,電車でシンガポールの街へ繰り出した。シンガポールはまさに「多民族国家」で,駅表示が英語,中国語,韓国語,アラビア語,日本語で,電車が到着するたびに5カ国語の放送が流れていた。街並みも独特で,超高層ビルのそばに中華街,そ して色彩豊かなヒンドゥー教寺院が妙な調和をもってたたずんでいた。最終日の前夜にはシンガポールで一番高いところにあるバーに先生方と共に行き,シンガポールの夜を味わった。

あっという間に10日間が過ぎて行ったが,ワークショップへ参加したことで得られたものは多い。 知らない土地へ行く勇気, 初めて出会う人と仲良く話す度胸,普段使い慣れない言葉を使うために頭がフル回転したことの楽しさ。海外への壁が少し低くなったおかげで,博士課程での短期留学や海外研究室訪問に楽しんで挑戦することができたと感じている。そして,まだまだ挑戦を続けて行こうと思う。
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2011年 | 東京大学理学部生物学科 卒業 |
2013年 | 東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻修士課程 修了 |
2013年~ | 日本学術振興会 特別研究員DC1 |
現在 | 同研究科 博士課程3年生 |