誕生直後の地球に迫る

飯塚 毅(地球惑星科学専攻 講師)


地球の形成は太陽系史45.67億年の初期に進み,その最終段階で火星サイズ原始惑星の衝突(ジャイアント・インパクト)により月が形成され,地球と月の大部分が溶融しマグマオーシャンに覆われていたことが,月岩石や惑星形成理論の研究から知られている。いっぽう,約38–35億年前の岩石中に生物源を示す炭素同位体組成をもった炭質物が見つかることから,その当時には生命が存在していたはずである。それでは,地球はいつ,どのようにして灼熱地獄から生命居住可能な星へと変遷したのであろうか?今回我々は,微量元素ハフニウム(Hf)の同位体を用いて,マグマオーシャンが冷え固まる時間スケールを制約した。

 
地球マントル,珪長質地殻,隕石ジルコンのHf同位体進化の模式図。Bの灰色領域は, 従来の太陽系初期176Hf/176Hfの誤差に起因するマントルHf同位体進化の不確かさを示している。

 
Hfは質量数174,176,177,178,179,180 の6つの安定な同位体をもち,176Hfの存在量はルテチウム-176 (176Lu) の放射性壊変(半減期357億年)により太陽系史を通して増加してきた。そして,ある岩石中の現在の176Hf存在度(176Hf/176Hf)は,その岩石のLu/Hfと形成された時間を反映する。例えば,石英や長石鉱物に富む珪長質な岩石から成る地殻は低いLu/Hfをもつため,その176Hf/176Hfの成長は地殻の起源であるマントルの成長に比べ遅くなる(図)。したがって,古い珪長質地殻ほど,現在の176Hf/176Hf は低い。この性質を利用し,地殻物質中の現在のHf同位体組成から,地殻形成年代を推定することができる。しかし,Hf同位体組成から地球の最古地殻の形成年代を精確に決定するには,太陽系形成時の176Hf/176Hfを知る必要があった。

そこで我々は,小惑星ベスタから飛来したユークライト隕石に含まれるジルコン鉱物に着目した。小惑星ベスタの形成は,太陽系形成直後であることが知られている。また,ジルコンは非常に低いLu/Hfをもつため,その結晶化時の176Hf/176Hfを保持できる(図)。したがって,ユークライト隕石中のジルコンには太陽系初期の176Hf/176Hfが記録されているはずである。そこで我々は,ユークライト隕石中ジルコンの高精度Hf同位体分析を世界で初めて行うことにより,太陽系初期の176Hf/176Hfを決定した。その結果,地球最古の珪長質地殻が45億年前に形成されたこと,つまり,その当時にはマグマオーシャンが冷え固っていたことが明らかになった。珪長質地殻には生命活動に必要不可欠なリンやカリウムなどの元素が濃集することを考えると,地球はその形成から数千万年以内に灼熱地獄から脱し,生命を育む環境を整えていたのかも知れない。

本研究は,Iizuka et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA112,5331 (2015) に掲載された。

(2016年4月14日プレスリリース)

 

 

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