放射線からDNA を守る新規タンパク質の発見

橋本 拓磨(東北大学 助手)

國枝 武和(生物科学専攻 助教)


クマムシは,4対の脚でゆっくりと歩く微小動物で,ほとんどの種は体長1mmに満たない。分類学上,昆虫やカニなどと比較的近縁な独自の「緩歩動物門」を構成する。南極や高山,深海からも発見されているが,身近な環境にも生息しており道端のコケなどからも見つけることができる。陸生種の多くは,周囲の環境が乾燥するとほぼ完全に脱水し,生命活動を一時的に停止した状態に移行する。乾燥したクマムシは,さまざまな極限環境に耐性を示し,超低温(ほぼ絶対零度)や高温(約100度),真空,超高圧(75, 000気圧),ヒトの半致死量の1,000倍の放射線照射に曝露した後も,給水することで生命活動を再開できる。宇宙空間に直接曝露されても生還した初めての動物である。クマムシは動物として抜群の環境ストレス耐性能をもつが,そのメカニズムはほとんど分かっていなかった。

  高い耐性を示すヨコヅナクマムシ(札幌市街地より採取)。ほぼ完全な脱水にも,ヒトの半致死量の1, 000倍の放射線照射にも耐える。


今回,私たちは,クマムシ類の中でも耐性の高いヨコヅナクマムシ(Ramazzottius varieornatus)について,高精度なゲノム配列を決定することに成功した。ゲノムには約2万個の遺伝子がコードされており,約40%が機能未知の新規な遺伝子であった。遺伝子発現プロファイルを調べると,乾燥時も再吸水時もほとんど変化は見られず,耐性関連遺伝子は恒常的に発現していると考えられた。クマムシの極限環境耐性のほとんどは乾燥状態でのみ観察されるのに対し,放射線に対してだけは水和した通常の状態でも乾燥状態と同程度の高い耐性を示す。通常,高線量の放射線はDNAを切断し生体に深刻なダメージを与えることから,クマムシにはこれらのダメージを軽減する特殊な機構があると考えられた。そうした機構に関わる候補分子として,クマムシのDNAの近傍に存在するタンパク質を解析した結果,クマムシ固有のタンパク質を見出し,Damage suppressor(Dsup)と名付けた。Dsupを産生するように改変したヒト培養細胞では,X線照射によるDNAの切断が通常細胞の約半分に減少することがわかった。DsupがX線からDNAを保護していると考えられる。さらに,Dsupを導入した細胞は致死線量のX線を照射した後も一部が生存し増殖することがわかった。

これらの結果は,クマムシ固有の遺伝子が耐性能力に重要な役割を果たすことを示すとともに,その遺伝子の導入によって他の生物の耐性能力を向上できることを明らかにした。クマムシのゲノムにはDsup以外にも機能未知の新規遺伝子が多数コードされており,今後も耐性に寄与する新たな遺伝子が続々と見つかることが期待される。

本研究成果は,T. Hashimoto et al ., Nature Comm.7. 12808 (2016)に掲載された。

(2016年9月21日プレスリリース)

※ 生物科学専攻 博士研究員

 

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