原始ブラックホールが見つかったか

須山 輝明(ビッグバン宇宙国際研究センター助教)


2015年9月,LIGO観測所がついに重力波を初めてとらえた。重力波とは,空間の伸び縮みが光速で伝播する一般相対性理論が予言する「波」であり,それが本当に検出されたのだから,これは大きな科学的成果である。しかし,研究者を驚かせたのは,重力波そのものよりは,検出された重力波をつくり出したのがなんと2つのブラックホールの合体だということだ。ブラックホールはその強烈な重力によってすべてを吸い込む天体である。これまでにも電磁波観測により,ブラックホールだと思われる候補天体は20個ほど間接的に見つかっていたが,重力波観測によってブラックホールが実在することが鮮明に確認されたのである。さらに予想外だったのは,これまでのブラックホール候補天体の質量にくらべて,今回見つかった2つのブラックホールの質量は双方とも2~3倍ほど有意に大きく,しかもそれらが連星を成し最後に合体するというこれまで見たことのない現象がこの宇宙で頻繁に起こっていることである。LIGO観測所による発見後,見つかったブラックホールがいつどこで生まれ,どのように連星を作ったのかを解明することが宇宙物理学の重要なテーマとして躍り出てきた。

  宇宙に分布するPBH連星のイメージ図。ビッグバン直後にできたPBHのいくらかは連星を形成し,その後重力波を放出し続ける。重力波放出とともに連星のサイズは徐々に縮み,最終的に強烈な重力波放射を伴って合体する。LIGOが観測したのは,この合体時の重力波である。

 
私たちは,発見されたブラックホールは原始ブラックホール(以後PBH と表記)である可能性を指摘した。PBHとは,宇宙開闢0.1ミリ秒後のまだ宇宙が超高密度であった時期に,周りよりも高密度の領域が圧縮されてできたブラックホールのことである。理論上はそのようなブラックホールが存在しても何ら不思議ではなく,またいまだ正体が分かっていない暗黒物質の候補ともなることから,1970年頃にPBHの存在可能性が提唱されて以来,PBHの探索が継続的に行われてきた。しかし,これまで存在を示す証拠は見つからななかった。そのPBHLIGO観測所が初めて見つけたかもしれないのだ。PBHシナリオでは,連星が自然に作られることが先行研究によって明らかにされており,今回の研究では先行研究を参考にして,予測されPBH連星の合体頻度を理論的に求めた。その結果,PBHが暗黒物質の約0. 1%を占めれば,予測合体頻度がLIGO観測所の結果と一致することを明らかにした。これは天の川銀河内に約3000万個のPBHがあることに相当する。こう書くと莫大な数のPBHに思えるが,ブラックホールは基本的には見えないので,このくらいの量のPBHがあっても他の観測とは矛盾しない。


今回のPBH説で予測されるブラックホール連星の合体頻度(縦軸)を,暗黒物質に対するPBHの比をパラメータ(横軸)として表したもの。合体頻度の単位は,1/Gpc3/ 年(Gpcは距離の単位でおよそ33億光年)。LIGO 観測所が発表した合体頻度(0.6 ~ 12)も桃色の帯で示してある。

LIGO観測所が見つけたブラックホールはPBHかもしれない。PBHが実在することが確定すると初期宇宙論に対するインパクトは計り知れない。今後の重力波観測でデータが蓄積してくると,PBH説を検証できるようになるだろう。

本研究は,Sasaki et al .Phys. Rev.Lett . 117, 061101(2016)に掲載された。

(2016年8月3日プレスリリース)

 

 

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