クレタ島の国際ツメガエル会議と「17連続発表」


塩川 光一郎(東京大学名誉教授/帝京大学 客員教授)

 

2016年8月28日(日)から9月1日(木)まで開かれた第16回国ツメガエル会議(16th Xenopus Conference)に出席のため,ギリシャのクレタ島を訪問した。若い頃はセミナーをしながら学会前後で研究仲間の家を泊まり歩くのが常だったが,今回は75歳という年を考えて福岡・クレタ島往復に留めた。途中,アテネ空港で荷物が届かず2日後にクレタ島で受け取るというハプニングはあったが,ともかく無事に帰国。私は以前から,(1)カエルの発生過程では遺伝子発現は卵割期から「起こる」(注:1982年の超有名な論文以来世界中の研究者は「胞胚期まで起こらない」と信じてきたが,最近追試も成され私の説が認められつつある),(2)卵にはアポトーシスのしくみがあり,胞期に異常な細胞をチェックし除く,(3)ホリスタチン,アクチビン受容体,アルドラーゼ,メチル化酵素そのほかの遺伝子を単離解析した,(4)卵のポリアミン代謝を調べた,などと発表してきた。今回は学生時代からの研究をまとめ,当時の仲間(福岡大の三角佳生,九州大の田代康介両博士)と共著で「rRNA遺伝子の発現が卵割期でなく胞胚期に始まるしくみ」について発表した。

  国際ツメガエル委員会
(International Xenopus Board)
からの「表彰状」。ガードン博士の直筆の文には,表 彰式で司会者が読みやすいようにと,次の文が添えてあった。
―― Dear Shiokawa
I would like to congratulate
you on your total c1ommitment
to supporting the Xenopus
meetings from the first one
until today.With best wishes,
          John G.

学会最後の夜に優れた発表を行った若者の表彰があった。その後突然に「今回は特別賞がある」とアナウンスがあり,私の名がよばれた。実は,私は1984年に米国ヴァージニアで開かれたツメガエルの学会に日本からはただ一人参加し,「ツメガエル初期胚のrRNA合成阻害因子(1981年日本動物学会賞)」について発表していた。この会はアメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)のイゴール・ダヴィッド(Igor B. Dawid)部長が「今がそれを開催する正しい時だ」として,全員の費用を準備して招集した30人規模の世界初の「ツメガエルに特化した」勉強会だった。私は会場で,名前しか知らなかった多くの学者とすっかり親しくなった。おそらくそれで「活性化」されたのだろう,私はその2年後に始まった2年毎のこのカエルの国際会議(約250人規模)に休むことなく出席し,いつの間にか32年間に亘るすべてのこの会議に参加した世界でただ一人の人になっていた。

そこで,今回のクレタ島会議の4人の委員全員のサインと2012年ノーベル賞受賞のジョン・ガードン(John Gurdon)博士(今回はニュージーランドで講演のため,不参加)の直筆の文とサインのある表彰状が私に与えられたのだった。私は若い頃は新発見により周りが喜ぶのがうれしくて自分が先頭に立って頑張ったつもりだが,教授になってからは取り巻きの若者が自分の好きなテーマで学位を取って育っていくのが楽しみとなり,近年では古い仲間に会うのが楽しみでこの会に出かけている。思い返せば,私が研究対象をイモリからこのカエルに替えたのはM2の院生の時であり,それが日本でこのカエルが発生学研究に使われた最初だった。ところで,今回の会議では,従来からあったこのカエルのtropicalisという種類(遺伝学的解析向き)の全ゲノムに加え,新たにlaevisという種類(形態学的解析向き)の全ゲノムが報告された。私の「ひいき目」かもしれないが,このプランでは東大時代の私の元の研究室の仲間(ダヴィッド博士のラボから来た平良眞規博士,および近藤真理子博士や伊藤弓弦博士ら)や広島大の鈴木厚博士らが日本側の中心だった。私はたまたまこの会で今回の「珍しい賞」を 頂いたのだが,これは本当にうれしいサプライズだった。

 

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