電波天文学と自転車の国で研究を学ぶ

李 民主(天文学専攻 博士課程1年生)

オランダというとチューリップ,風車を思い浮かべる人が多いかもしれない。実はオランダは電波天文学と自転車の国でもある。オランダでは夏以外はよく曇天になるが,その天気のお陰で発達できたのが電波天文学である。電波は可視光と違って,私たちの視野を妨げる曇りを通り抜けることができるからである。私は修士1年の夏の間, オランダの電波天文研究所(ASTRON:Netherlands Institute for Radio Astronomy) で夏期学生(summer student) として3ヶ月間滞在し,ASTRON所属の研究者と一緒に研究を行ってきた。

アムステルダムから電車で約3時間,北へ向かうと地平線が覗けるドウィンゲロープ(Dwingeloo) という小さい村がある。村からさらに森の方に向かうと,ASTRONの建物が見えてくる。ASTRONは主に低周波数(8GHz以下) の電波を受信する望遠鏡を運用,開発している天文研究機関である。

ASTRONが運用中の望遠鏡Westerbork Synthesis Radio Telescope の前で

私はASTRONで3人のスタッフから指導を受けながら,強い重力レンズ天体を電波観測から見つける研究に取り組んだ。重力レンズ天体を調べることで,光を「曲げる」物質(銀河や暗黒物質等)の情報や,光源である後方銀河の姿を調べることができる。可視光に比べ,電波見つかっている重力レンズ天体はまだその数が少ないので,数を増やすという点でも非常に重要な研究だった。しかし,約4000個の観測データ から候補天体を選びだす作業は簡単ではなかった。 2日に1回程度で3人のスタッフに進捗を報告しながら,較較正,正,画像化,候補選びの一連の作業を行った。3ヶ月後,私たちは7つの候補天体を選びだすことができた。日本には戻ってきたが,まだこれは進行中のプロジェクトである。候補天体を確定するために必要な多波長観測の観測提案書やアルゴリズムの改良の作業は,メールでやりとりをしながら今でも少しずつ進めている。

ASTRONがある森の中,自転車で走れる

さて,週末になると,私を含む6人の夏期学生は自転車を走らせて旅をした。 ASTRONは森の中で非常に自然に恵まれている場所に位置していて,かつオランダは高い山もなく,どこでも自転車の道路がよく整備されている。近く(?) の大きな町まで往復60km を走ったときには, 大変ではあったが一生忘れられない良い思い出になった。それ以外にも毎週火曜の夕方にはサッカーゲームが開かれたり,毎週木曜日には飲みながら話しながらのカードゲームをしたりした。オランダの夏の間だけできる楽しみだ。

修士1年はまだ研究が何か,研究をどのようにすれば良いか全くわからない時期だった。3ヶ月という非常に短い期間ではあったが,私はその間,研究をどのように始め,共同研究者といかにうまくコミュニケーションするかを学び,実際の研究がどう進むのかを初めて経験した。オランダでの経験は今の私にとって重要な支えになっている。ほぼ2年が経った今,私は本格的な研究者になるためのもう一歩を踏み出そうとしている。

 

 
2013年 鹿児島大学理学部物理科学科 卒業
2015年 東京大学大学院理学系研究科天文学
  専攻修士課程 修了
2015年~ 日本学術振興会 特別研究員DC1
現在 同博士課程在籍

 

 


遠方見聞録>

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加