膜構造の変化が不要な神経突起の区画化と除去を誘導する

榎本 和生(生物科学専攻 教授)


私たちの脳では,軸索と樹状突起という機能的,構造的に異なる2種類の神経突起を介して, 1,000億個ものニューロンがネットワークを形成している。ヒトの脳神経回路の大まかなネットワークは胎児期に形成されるが,この発生初期の幼弱な回路は,いわゆる「混線状態」にあり,その後の発達段階において,不要な回路の切断や除去を含むネットワークの再編が起こることにより,機能的な情報処理回路へと成熟する。この不要な回路の除去過程では,不要な突起のみが変性,あるいは除去される一方で,必要な回路は維持されることが重要である。しかし,ニューロンが自らの突起群の中から「要」「不要」を選択する機構は長らく謎のままであった。その理由として,従来のネコやマウスなど哺乳動物を用いた研究では,不要な回路の除去過程をリアルタイムで追跡することが技術的に不可能であり,また分子生物学的手法により分子基盤を同定することも困難であったことがあげられる。


「局所性エンドサイトーシスが樹状突起の区画化を誘導する」神経突起の刈り込みが起きるときには,不要な突起の近くでエンドサイトーシスが誘導されることにより突起の根元が急激に細くなる(狭窄)。この突起構造の急激かつ局所的な変化が,ニューロンの細胞体とは反対側(遠位側)の神経突起と細胞体との物質の往来を遮断することにより,カルシウム振動が遠位側の神経突起において発生し,最終的にカルシウム依存的分解酵素カルパインを介して突起が分解されると説明できる

これまでに私たちは,ショウジョウバエ変態期における神経突起の選択的除去機構に着目して研究を行い,不要な突起が除去に先駆けて区画化※ を受け,自発的に低頻度カルシウム振動を発生することが,その突起の除去を誘導する初発因子であることを発見していた (Kanamori et al.Science 2013)。しかし,不要な突起が区画化される仕組みは不明のままであった。

今回,私たちが独自に開発し確立した高解像度ライブイメージング観察法を駆使して,神経突起の構造変化を詳細に解析したところ,将来的に除去されるべき神経突起の根元が急激に細くなり,細胞内成分の往来が抑制されることを発見した。この構造変化は, Rab5とダイナミンという2つのGTP アーゼの活性により引き起こされる細胞内物質の取り込み作用が原因であり,いずれかの酵素の活性のみを一過的に阻害すると,神経突起の区画化が阻害され,同時に低頻度カルシウム振動の発生および神経突起の除去も停止した。以上の結果から,神経突起において一過的かつ局所的に誘導されるエンドサイトーシスが不要突起の区画化と除去を引き起こすことを示した。

最近の研究から,脳の神経回路の機能が成熟する過程で生じる異常は,自閉症や統合失調症などの一因となる可能性が示されており,本研究成果は,これらの脳疾患の発症機構の解明,さらに,診断法や治療法の開発に貢献することが期待される。

本研究はKanamori et al.Nat.Commun. 6, 6515 (2015) に掲載された。

(2015年3月12日プレスリリース)

※米区画化:一見連続的に見える細胞構造物において,ある場所を境に細胞内物質の往来に制限が加わることがあり,そのような場合,「区画化されている」と表現する。

学部生に伝える研究最前線>

 

 

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