超高解像度でせまる太古の銀河のすがた

田村 陽一(天文学教育研究センター 助教)

大栗 真宗(ビッグバン宇宙国際研究センター 助教)

 

 


重力レンズ効果とは,アインシュタインの一般相対性理論によって予言される,質量が時空の歪みを介して光路を曲げる現象だ。重力レンズ効果は,非常に重い天体の周囲で必ず生じ,その向こう側の天体の見かけの姿を拡大・増光する性質がある。なかでも,距離の異なるふたつの銀河が視線方向にほぼ完全に重なるときにだけ生じる「アインシュタイン・リング」は,天文学における強力なツールになる。というのも,より遠いほう(背景)の銀河の詳細な構造を拡大して観察したり,手前(前景)の銀河がもつ恒星やブラックホールなどの質量を測定したりできるからだ。

そのような中,2015年2月,アルマ望遠鏡が撮像した遠方銀河SDP.81のアインシュタイン・リングの高解像度画像が公開された(図)。アルマ望遠鏡は,日米欧の国際協力のもとで南米チリのアタカマ高地に建設された最新鋭の電波望遠鏡だ。現在もその性能の向上が図られ,2014年末に20ミリ秒角(20万分の1度角)という超高解像度を達成した。アルマが撮像したその画像は,またたくまに研究者の注目を集め,さながら国際的な研究レースに発展しつつあった。しかし,あまりに複雑なアインシュタイン・リングの解釈は困難をきわめた。


アルマ望遠鏡によって撮像された117億光年彼方の銀河の「アインシュタイン・リング」。 Credit: ALMA (NRAO/ESO/NAOJ), Y. Tamura (The University of Tokyo)

そこで私たちは,このアインシュタイン・リングをもっとも精緻に再現できる重力レンズ効果モデルを,世界に先がけて提案した。このモデルでは,前景銀河周辺の重力場の歪みを高精度で補正する,いわば重力レンズの乱視矯正を徹底的に行った。これは,牛乳瓶の底を通してながめた風景を手がかりに,瓶の底のガラスの厚みとその向こうに広がる風景を同時に推定することに似ている。

この作業には骨を折ったが,興味深い結果が得られた。背景銀河の内部に,大きさが「わずか」数百光年のガス星雲が,少なくとも30個程度分布していることがわかった。117億光年もの距離に位置する銀河の内部構造がこれほど鮮明に解像されたのは,今回が初めてである。これらの星雲は,巨大分子雲とよばれる恒星や惑星が生まれる母体だと考えられる。また,私たちのモデルは,思わぬ副産物も生んだ。重力レンズ効果モデルを構築する過程で,前景銀河の中心に太陽の質量の3億倍以上におよぶコンパクトな重力源が必要なことに気づいた。これは前景銀河の中心にひそむ超巨大ブラックホールだと,私たちは考えている。

最新鋭の望遠鏡と重力レンズ効果がもたらす解像度は,人間の視力に換算して13000に達する。このふたつの「望遠鏡」の組み合わせは,銀河の誕生と進化を解き明かすための鍵になるだろう。

本研究は,Tamura et al.Publ. Astron. Soc. J . 67, 72 (2015) に掲載された。

(2015年6月9日プレスリリース)



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