カーボンナノチューブ有機薄膜太陽電池

松尾 豊(化学専攻 特任教授)

田 日(化学専攻 博士課程3年生)

 

 


有機薄膜太陽電池は,半導体の性質をもつ有機化合物(有機半導体)を電極に塗って作られる。太陽光を受けて電子を発生させる有機半導体が, 2枚の電極にサンドイッチのように挟まれている。太陽光を有機半導体に透過させるために,2枚の電極の少なくとも1枚は透明な電極である必要がある。通常,透明な電極を作るために,インジウムという希少金属が使われてきた。私たちは,透明電極に,炭素でできた太さ1~2ナノメートルの筒状の物質,カーボンナノチューブを用いる方法を確立し,インジウムを用いない新しい有機薄膜太陽電池を開発した。

カーボンナノチューブ薄膜そのものの電気を流す性質は,透明電極に適用できるほど高くない。そこで,カーボンナノチューブ薄膜に酸化モリブデンという酸化剤を作用させ,カーボンナノチューブ薄膜中の電子を抜き取った。このことで,カーボンナノチューブにプラスの電荷が注入され,カーボンナノチューブ薄膜が電気を流せるようになる。しかも,カーボンナノチューブ薄膜は,プラスの電荷とマイナスの電荷のうち,プラスの電荷のみを捕集する特性をもつようになる。

有機薄膜太陽電池では,電子を与える有機半導体と,電子を受け取る有機半導体が混ぜ合わされて用いられる。電子を受け取る有機半導体として,フラーレン誘導体が用いられる。有機発電層が太陽光を吸収すると,電子を与える有機半導体にプラスの電荷が,電子を受け取る有機半導体にマイナスの電荷が生じる。酸化モリブデンでプラスの電荷を注入したカーボンナノチューブ透明電極は,プラスの電荷のみを選択的に捕集し,マイナスの電荷はアルミニウムの裏面電極へ流れる。このように電荷の流れる向きを制御した結果,6%以上のエネルギー変換効率を得ることができ,従来のカーボンナノチューブを電極とした有機薄膜太陽電池の変換効率を3倍に向上させることに成功した。また,PETフィルムの上にカーボンナノチューブ薄膜を転写して用いることで,フレキシブルなカーボンナノチューブ有機薄膜太陽電池を作製することにも成功した。


PET基板に作製したフレキシブルなカーボンナノチューブ有機薄膜太陽電池。透明電極はプラスの電荷を注入されたカーボンナノチューブ薄膜,裏面電極はアルミニウム。両電極間に発電を行う有機半導体が挟まれている

カーボンナノチューブは安価な塩化鉄などの鉄触媒とアルコールや一酸化炭素などの炭素源を用いて合成され,原理的には安価に製造することが可能といえる。カーボンナノチューブを活用することにより,有機薄膜太陽電池の実用化へ向けた研究が加速されるものと期待される。また,フラーレンも炭素を主体とする材料であり,フラーレンとカーボンナノチューブを構成材料とする新たな炭素太陽電池の創出にもつながるものと期待される。

本研究は,I. Jeon et al., J. Am. Chem. Soc ., 137, 7982 (2015) に掲載された。

(2015年6月16日プレスリリース)



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