特別記事 追悼 南部陽一郎 博士

南部陽一郎 (シカゴ大学名誉教授/大阪市立大学特別栄誉教授)
1942年東京帝国大学理学部物理学科卒業(理学博士/1952年東京大学),
1949年東大理学部物理学科助手。1949年より大阪市立大学助教授,
1950年同大学教授を経て,1958年よりシカゴ大学教授となる(1991年シカゴ大学名誉教授)。
2008年「素粒子物理学と核物理学における自発的対称性の破れの発見」の業績に対して,ノーベル物理学賞受賞。

南部陽一郎先生のご冥福を祈って
物理学専攻長 佐野 雅己(物理学専攻 教授)

深い洞察により20世紀後半の理論物理学を先導し,その温厚な人柄でも世界の科学者の尊敬を集めていた南部陽一郎先生が2015年7月5日に逝去されました。東京大学物理学教室として,謹んで哀悼の意を表します。

故・南部陽一郎 博士(写真:シカゴ大学)

南部先生は1921年に東京でお生まれになり,幼少期を福井県で過ごされ,旧制一高を経て, 1942年に東京帝国大学理学部物理学科を卒業されました。卒業と同時に陸軍のレーダー研究所に徴兵され,終戦後は大学に戻り, 1946年から1949年まで本学物理学科嘱託,助手を務められました。食糧難の時代に,旧理学部1号館に泊まり込みで研究に没頭されたと聞き及びます。1949年9月に新設の大阪市立大学の助教授に採用され, 1950年には29才の若さで教授となられました。1952年に朝永振一郎氏の薦めで渡米し,プリンストン高等研究所に研究員として勤務され, 1954年にシカゴ大学助手, 1956年に同助教授, 1958年に教授に採用され,その後1991年にシカゴ大学名誉教授となられた後も研究を続けて来られました。

南部先生のご業績は,自発的対称性の破れの理論,カラー自由度の導入,弦理論の提唱と枚挙にいとまがありません。1978年には文化勲章, 2008年には,小林誠氏,益川敏英氏とともにノーベル物理学賞を受賞されました。受賞理由となった自発的対称性の破れ (Spontaneous Symmetry Breaking) は,超伝導の理論にヒントを得て構築された,素粒子の質量の起源の問題を解き明かす概念で,その一般性から,多くの物理学の分野に多大な影響を与えると同時に, Higgs粒子発見のきっかけにもなりました。この理論形成には,東大の助手時代に久保亮五博士の物性理論グループと隣り合わせた経験も影響を与えていると言われています。

物理学教室では, 2003年から始まった21世紀COEプログラム「極限量子系とその対称性」(拠点長:佐藤勝彦教授(当時))の一環として度々教室に招へいし,「S S B (spontaneous symmetry breaking) 物語」と題する集中講義を開講するなど,様々の機会に講演を行って頂きました。2008年のノーベル物理学賞の受賞の際には,理学部および物理教室でも受賞をお祝いする広報の特集号を発行させて頂きました。南部先生は,アメリカに移られた後も,多くの研究者に影響を与え続け,物理学を目指す日本の若手研究者が目標と仰ぎ見る存在でした。常に10年先を予言したと評される独創性にあふれた先生のご研究,後進に与えた多大な影響,その誠実で暖かいお人柄に敬意を表し,心から深くご冥福をお祈りします。

南部先生の想い出
江口 徹(立教大学 特任教授/東京大学 名誉教授)

南部先生の65歳のお祝いの会の会議録より
(出典:「Fields, Symmetries, Strings, Festschrift for Yoichiro Nambu」,
Progress of Theoretical Physics Supplement No 86, 1986)

我々の敬愛する南部陽一郎先生が2015年7月5日に急性心筋梗塞のためにお亡くなりになられました。享年94歳でした。戦後に現れた世界最高峰の理論物理学者のお一人でした。よく指摘される事ですが,先生の研究は他の物理学者の仕事の数年先, 10年先を歩んでいるところがありました。自発的対称性の破れの理論は,どこから見ても対称性の見えない世界をひっくり返して眺めてみると,隠れていた対称性が見えて来るという一見すると手品のようなお仕事です。現在素粒子物理学の最も基本的な考え方になっていますが,その思想が定着するには10年以上かかりました。このような常識にとらわれない,自由で根源的な発想が先生のどこから出て来たのか,我々には伺い知れないものがあります。先生はこの他に,量子色力学 (Quantum Chromo Dynamycs:QCD) の原型となるカラーゲージ理論の提唱,素粒子の弦模型の導入等のお仕事をされて,今日の素粒子の標準模型と将来の素粒子論の形成に決定的な寄与を残されました。泉から水がわくように次々と出て来るアイディアを思う存分に展開されて,物理学の歴史に大きな足跡を残された先生は誠に見事な生涯を送られたと思います。ご冥福を心より御祈りします。

 

 

 

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