南アフリカ天文台

松永 典之(天文学専攻 助教)

みなさんは,南アフリカと聞いてどんなことを思い浮かべるであろうか。2010年サッカーW杯が開催された国,アパルトヘイトと呼ばれる人種隔離政策を行っていた国,あるいは犯罪が多く治安がよくない国などと思われる方もいるかもしれない。南アフリカ共和国(以下,南ア)は,アフリカ大陸の南端に位置する人口約5千万人の国である。南アは天文学において重要な国でもある。南北両半球で見える天体が異なるため,南アやオーストラリア,チリのように南半球で天体観測に適した条件(乾燥した高地など)を満たす地域をもつ国は総じて天文学が活発である。南アはオーストラリアと並んで早くから近代天文学の重要な舞台となり,19世紀前半にはイギリスの喜望峰王立天文台として,近代的な施設を備えた天文台がケープタウンに整えられている。1972年からは南ア天文台(South African Astronomical Observatory) として,現在まで当地における天文学研究の中心地となっている。

共同研究の論文が掲載された記念の集合写真(2014年4月21日撮影)。左から, M. フィースト(Michael Feast) さん,J.メンジス( John Menzies) さん, P. ホワイトロック(Patricia Whitelock)さん,筆者

私自身は,理学部天文学科の4年生であった2002年以来,10年以上にわたって天体観測や共同研究のために繰り返し南アを訪れ,通算すれば18ヶ月以上滞在している。赤外線掃天施設(Infrared Survey Facility,略してIRSF) と呼ばれる口径1.4mの望遠鏡とSIRIUSカメラと呼ばれる赤外線カメラを用いて,天の川銀河の変光星の探査などを行ってきた。中には1年以上の周期で明るさを変化させる星もあり,長期間にわたって同じ空の領域を繰り返し観測する必要がある。約15年間にわたって赤外線カメラが安定して稼動してきたIRSFは,このような観測を行うことができる世界でも数少ない(観測が始まった2000年当時から稼働を続ける唯一の)観測施設である。望遠鏡と赤外線カメラは開発チームによって安定して使いやすいシステムに仕上げられていて,実施したい観測があらかじめ決まっていれば,夕方に計算機で設定しておくだけでデータを収集することが出来る。よく晴れた晩で,天候条件によって観測の停止や変更が必要となる心配がなければ,得られるデータの質を時折確認する程度で,あとはデータ解析などの仕事にとりかかることも可能である。観測室の外に出て,自分が観測している天域を確認しつつ,快晴の星空を眺めるのも楽しい。南ア天文台など現地の研究者とも多くの共同研究を行い,セファイドと呼ばれる,距離や星の年齢の指標となる変光星を天の川中心部に世界で初めて見つけるなどの研究結果を得ることができた(理学部ニュース2011年11月号「研究ニュース」)。

南アは,初期の人類の一グループと考えられているアウストラルピテクスが最初に発見された国でもある。我々の祖先である猿人たちも,天の川を今と変わらず眺めていたに違いない。天の川が星の集まりであることを発見したのは約400年前のガリレオであるが,数百年のうちに我々の宇宙観は劇的に変わった。とくに,20世紀以降,宇宙の構造と歴史について天文学者・宇宙物理学者たちが挙げてきた研究成果は,人類文明が打ちたてた金字塔として誇れるものであろう。地球とそのごく近傍に限定された存在であり,現生人類に限ればほんの数十万年前に生まれたに過ぎない人類が,138億年の宇宙の進化を解明してきたことには,言葉では表せない強い感銘を覚えずにいられない。人里はなれた南アの天文台で頭上に横たう雄大な天の川を眺めながら,遠い祖先か先達の天文学者かあるいは宇宙そのものか,その対象が判然とはしない一体感を感じるのである。

 

 

理学の現場>

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加