祖先が食べていたコメの話

熊谷 真彦(生物科学専攻 特任助教)

植田 信太郎(生物科学専攻 教授)

 

 


アジア栽培イネ(Oryza sativa)はジャポニカとインディカに大別され,日本人が現在食べているコメはもっぱら前者であり,後者は南アジア,東南アジア地域を中心に広く食べられていることはご存知であろう。それでは,稲作がもたらされた時から今まで,我々の祖先はジャポニカ米のみを食べてきたのだろうか。

遺物のDNAは長い年月の間に分解,断片化し,微量のため分析には困難が伴う。さらに炭化米は稲穂ではなくコメ粒が別れた状態で出土するものがほとんどであるが,各コメ粒が遺伝的に同一とは限らないため一粒ずつ分析する必要がある。我々は独自に作製した現生イネの遺伝的多様性を網羅するレファレンスデータからDNAマーカーを選定し,日本と朝鮮半島の7遺跡から出土した炭化米,計500粒以上を分析した。その結果,900~2,800年前の4遺跡の計26サンプルから目的のDNA配列を得ることに成功した。解析の結果,日本の弥生時代および中世の炭化米からはジャポニカ米に加えてインディカ米のDNA型が検出された。さらに朝鮮半島では2,800年前の1粒の炭化米はジャポニカ米であったが, 2,000年前の他の遺跡からはインディカ米のみが複数検出された。この結果は驚きであった。現在の日本,朝鮮半島や中国北部といった地域においてはもっぱらジャポニカ米が生産・消費されているからである。しかし複数の試料,複数のDNAマーカーから結果は支持され,我々は確信を得た。古い文書の研究から日本の中世でのインディカ米の利用が議論されていたが,今回, DNAによる直接的な証拠からそれが示され,さらに弥生時代にまで遡ることが明らかとなった。今回見つかったインディカ米はその地で栽培されていたのか,外から持ち込まれたのかはわからない。一般的にインディカ米は低温地域での栽培には適していないと言われてもいる。しかし遺伝的多様性が低いジャポニカ米と比べ,インディカ米は大きな多様性,すなわち多様な環境へ適応するための素地を有しており,古代東アジア北部に生活した我々の祖先が,変動する気候環境に対し,この多様性を利用し栽培していたのかもしれない。

 



現生アジア栽培イネと炭化米
(左:インディカ米,中央:900年前の遺跡から出土した炭化米,右:ジャポニカ米)


この炭化米DNA分析の成功により,現在も議論が続いているジャポニカとインディカの起源,栽培化過程における両者の関係性といった謎について直接的に観るための道筋がつけられた。また,現代における作物の多様性の減少は,環境変化への適応力や病害抵抗性を著しく弱める側面から,大きな問題とされているが,栽培イネにおける多様性の大きな低下が古代から現代にかけて東アジアで起きてきたことが示された。

本研究成果は,M. Kumagai et al. ,Mol. Biol.Evol. 33(10)2496-2505(2016),(IF 13. 6)に掲載された。詳細はEurekAlert!プレスリリース(「AAAS ancientrice DNA」で検索)を参照されたい。

(2016年7月26日)

 



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