重力波天文学,始まる。

三代木 伸二(宇宙線研究所 准教授/物理学専攻 兼担)

2015年9月から今現在まで,長年重力波を研究してきた研究者にとって,盆と正月どころかクリスマスとイースターまで同時に来たような状態がつづいている。2015年9月1日に,人類にとって,宇宙を観測する新しい窓となる重力波の直接検出に,アメリカの重力波観測施設であるLIGO(ライゴ)が初めて成功したからだ。我々日本の研究者だけでなく,世界中の重力波研究者が称賛し,我ごとのように喜ぶと同時に,筆者本人としては,実は安堵しているのが本音だ。大学院生から四半世紀かけてやってきた研究の目標でもあり,かつ,その先の重力波でしか見えない広大なフロンティアを探索するスタート地点でもあるマイルストーンが「ある」ことが分かったからだ。

KAGRA試験運転時の制御室:2016年3月のKAGRA の試験運転開始時にKAGRA制御室に集まった研究者と事務のメンバー


検出された重力波の起源は,さらに驚くべきものだった。連星ブラックホールの合体から発生したと推定され,ブラックホールが直接的に重力波で確認できたのも,そのブラックホールが連星を成しえることも,さらに,その連星が宇宙年齢以内で合体し得ることも,予想外かつ,初めて尽くしの内容だったからだ。

KAGRAで鏡を20Kまで冷却するクライオスタット装置とそれを取り囲むクリーンルーム

この重力波をとらえるには,腕の長さが3~4kmもあるマイケルソン型レーザー干渉計が用いられる。重力波が来ると,このレーザー干渉計の腕の長さが変化するが,その変化量は腕の長さの1兆分の1のさらに100億分の1程度しかない。その感度をめざし,現在,アメリカのLIGOだけでなく,ヨーロッパのVIRGO,そして日本のKAGRA重力波望遠鏡が改良中,及び建設中であり,実はどれもまだ完成していない。互いに重力波観測一番乗りを目指していた中,直接検出ではLIGOグループの先取となったが,重力波の波源を決定するには,地球上に最低3台の重力波望遠鏡が必要である。そのため,国際協力は必須であり,基本的に互いの技術や開発内容はほぼ公開されており,研究者間交流も活発だ。

日本のKAGRA計画は,東京大学宇宙線研究所(スタッフは,梶田隆章所長,大橋正健,川村静児,内山隆,三代木伸二)がホスト機関となり,東大理学部(安東正樹研,横山順一研,Kipp Cannon研)はもちろん,国内外あわせ81機関287人が参加した国際協力で進められている。KAGRA自体は,岐阜県飛騨市神岡町にある池ノ山(旧神岡鉱山)の地下200メートル以深の地下空間に建設中である。いかなる振動も嫌う重力波望遠鏡にとって,地面振動が地表に比べて100分の1よりも小さい地下環境は最適なのだ。2016年3月から4月にかけて, KAGRAはマイケルソン干渉計としての試験運転を行い成功裏に終えることができた。それに先立つ3か月間は,スタッフ,若手の研究者,大学院生の総出の忙しさの中,各自の担当場所の準備に奔走した。3km先までレーザー光を飛ばし,鏡で反射させ,干渉縞を最適化し,制御をかけてフリンジを定点にロック,データ取得系も走らせ, kmスケールのレーザー干渉計が動作したこの瞬間には,宇宙線研の宮川治助教や苔山圭以子特任助教など,その場で参加していた研究者から拍手も起こった。理学部の道村唯太助教の「干渉計が動くと楽しい」という言葉も印象的だ。 KAGRAは最終目標感度をめざし,まだまだ構築作業が続いている。重力波という宇宙を観測する新たな「窓」により,想像もつかなかったことが発見できる日を楽しみにしている。

 

 

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