超高圧電子顕微鏡が描きだす最初の植物の姿

野崎 久義(生物科学専攻 准教授)

高橋 紀之(生物科学専攻 博士課程3年生)

 

 


葉緑体をもつ植物細胞の起源と植物界の定義に関して,我々はゲノム情報をより正しく使用して明らかにしようとした研究を2003年から開始した。その結果,一次植物の祖先から二次植物(一次植物が2回目の共生で葉緑体となったミドリムシ類や褐藻類等)や無色の原生生物が進化したという「『超』植物界仮説」を2007年に提唱した。その後,世界の研究者が競ってこの仮説を覆そうとしたが,現時点ではゲノム配列情報から本仮説を肯定することも否定することもできないとする論文が最近発表された。従って,ゲノム配列以外の情報から植物の起源を探ることも重要と考え,今回,最も原始的と考えられている一次植物「灰色植物」の形態学的研究を実施した。灰色植物は単細胞~群体性の淡水産の生物で葉緑体の色素組成や分裂様式がシアノバクテリアに極めて類似しており,葉緑体を獲得した直後の始原的植物細胞を明らかにするモデル生物群でもある。

今回の成果を基にして考えられる最初の植物細胞の進化の模式図。シアノバクテリアを取り込み葉緑体にしたとされている最初の植物細胞(一次植物の祖先)が今回灰色植物で明らかになったような細胞膜を密に裏打ちする扁平小胞をもつ単細胞生物であったと考えられる。同様の細胞膜を裏打ちする構造が二次植物のハプト藻類等でも認められる。なお,「超」植物界仮説では一次植物はこのようにまとまらない。褐藻類,アルベオラータの一部,クリプト藻,ミドリムシも二次植物である。「SAR」 はストラメノパイル,アルベオラータ,リザリアの総称である。Cy,シアノバクテリア:FV,扁平小胞:M,ミトコンドリア:N,核


灰色植物には2大系統があり,一方が細胞壁を欠く鞭毛型細胞のキアノポラ(Cyanophora) であり,もう一つが厚い細胞壁で覆われた不動細胞をもつグラウコキスティス (Glaucocystis等の系統である。我々は2014年にキアノポラの細胞表層構造を超高分解能「電界放出形走査型電子顕微鏡 (FE-SEM)」などの複数の電子顕微鏡法を用いて明らかにした。特にFE-SEM は細胞壁のないキアノポラの原形質体を表層から直接観察するのに有効であり,細胞膜の内側を裏打ちする細胞全体を覆う密な小葉状の扁平小胞を明らかにした。しかし,細胞壁で覆われたグラウコキスティスの原形質体表層の観察には FE-SEM が有効でないのは明らかであった。また,2大系統の一方だけの情報で灰色植物の共通の祖先を推測することはできない。

今回我々は大阪大学超高圧電子顕微鏡センターとの共同研究で,当センターが保有する世界最高加速電圧の超高圧電子顕微鏡を用いることで厚い細胞壁で覆われているグラウコキスティスの原形質体表層の微細な三次元構造を明らかにした。この構造はグラウコキスティスの細胞膜全体を小葉状の扁平小胞が密に裏打ちするというものであり,基本的にはキアノポラのものと同じであった。従って,このような微細三次元構造をもつ祖先細胞が葉緑体を獲得したという「10 ~20億年前の最初の植物の姿」が推測された(図)。今後,他の真核生物の微細構造を明らかにすることで,光合成植物の起源の理解がより深まると期待される。

本研究成果は,T. Takahashi et al .,Sci. Rep. 5. 14735 (2015) に掲載された。

 

(2015年10月6日プレスリリース)



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