光で酵素を操り細胞内シグナルを分析する

小澤 岳昌(化学専攻 教授)

黒田 真也(生物科学専攻 教授)

桂 嘉宏(化学専攻 博士課程3年生)

 

 


細胞内における酵素活性は,睡眠や栄養摂取,また温度変化などの細胞外のさまざまな要因に応じて,時々刻々変化する。疾患のもととなる細胞では,ある時には酵素が活性化し過ぎたり,逆に不活性化したりと,その時間的変化に異常がみられる。これらの時間的変化の生物的意義や,細胞のふるまいに対する寄与の程度は, 未だ謎に包まれている。酵素活性を「はかる」分析技術は確立しているものの, 生きた細胞内の特定の酵素活性を「時間的・空間的に操作する技術」が乏しいためである。

本研究では, 光感受性を有する人工の酵素を作製し, 細胞外部から光を照射して細胞内の人工酵素を活性化させるシステムを開発した。光操作の対象には, タンパク質リン酸化酵素Aktを選択した。Aktは糖尿病やガンなどの疾患において,その活性が異常な時間的変動を示すことが知られている。そこで我々は,植物由来の光受容タンパク質をAkt に連結して,人工の光感受性酵素を開発した。外部光照射と暗状態をあるタイミングで切り替えると,この光感受性酵素の活性化状態と不活性化状態を分単位で切り替えることができた。また,光照射のタイミングとAkt活性化の時間変化を対応づけ,Akt活性の定量的な光操作を実現した。

開発した手法を用いて, 強度が異なる3つのAkt活性の時間変動パターンをつくり,それぞれのもとでの細胞のふるまい(Aktによって調節される遺伝子発現)の変化を解析した。その結果,Akt 活性が強く頻度が低い活性化のパターンよりも, 頻度が高くAkt活性が低いパターンのほうが,細胞のふるまいの変化が大きかった。重要な点は,開発した技術では定量的な操作が可能であるため,3つの時間パターンにおけるAkt活性の総量は同一に設定した点にある。すなわち,酵素活性の総量が同じでも,その時間的な変動が異なれば,細胞のふるまいも変化することを示している。Akt活性の時間的変動パターンに生物的意義があることを実験的に示す結果である。

Aktに連結した人工光感受性酵素を培養細胞に導入し,細胞に異なるタイミングで光を照射する。光照射の時間パターンが決まれば,細胞内シグナルの数理モデルに基づき,Akt 活性の時間変化を定量的に予測することができる


今後は,Akt活性の時間変動による生物的意義をさらに探求し,マクロな生命現象の文脈における時間変動の仕組みや破綻の意義について,疾患などと関連づけた理解を目指す。それとともに,開発した技術を他のさまざまな酵素に適用し,酵素活性の時間的変動パターンが有する生物的意義をさらに探求する予定である。

本研究は, Y. Katsura et al. , Sci. Rep. 5, 14589 (2015)に掲載された。

 

(2015年10月1日プレスリリース)



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