機能性磁石開発の素(もと)

中林 耕二(化学専攻 助教)

磁石は身近な材料でありながら,その用途は電化製品から工業用途,医療用途まで広範囲におよぶ。これまでに多種多様な磁石が合成されているが,磁石としての性質を持ちながら,他の機能を有する機能性磁石はあまりご存じではないかもしれない。

大越研究室では,新規構造を有する金属錯体や金属酸化物を化学的に合成し,光,電気,湿度など外部刺激に応答する機能性磁石の開発を行っている。物質開発の基本的な流れは,物質設計・合成,組成分析,構造決定,磁気測定を含む各種物性測定となる。一般的な金属錯体を合成する場合は,望みの錯体を合成するのに必要な金属イオン,配位子を選択し,それらを溶媒中で混合することによって金属錯体の粉末または結晶として得る。一方,金属酸化物は,各種金属塩等を無水ケイ酸等でくるみ,それを電気炉で焼成することによって合成するという違いがある。一見簡単に見えるが,新規化合物を定量的に純度高く合成するには,効率的にスクリーニングを行い,反応時間,温度,濃度,精製法など多岐にわたる合成条件を最適化することが必要となる。研究室では,このような合成過程を繰り返しながら,日々,新規化合物の探索がおこなわれている。

SQUID磁化測定装置

さて,得られた化合物は様々な装置を用いて分析され,その構造,物性などが明らかにされるが,磁気物性を評価するには磁化測定装置を用いる。写真にあるのは,磁化測定装置の一例である。この装置には,SQUID(Superconducting QuantumInterference Device:超伝導量子干渉素子)が搭載されており,測定試料によるわずかな磁場の変化を電圧変化として検出することによって,高感度な磁化測定が可能となっている。磁化測定においては,試料の磁化だけでなく,試料を入れる容器等の磁化も合わさって検出される。そのため,試料量が少ない場合や,試料の磁化が小さい場合は,試料容器等の磁化の占める割合が大きくなるため,慎重にそれらの寄与を考慮する必要がある。まずは基本に忠実に,各測定点において生データ(SQUIDによって検出された電圧変化)をよく眺め,測定中心のずれやバックグラウンドの寄与などの様々な因子を検証することが重要である。また,強磁性体の混入は,少量であっても大きな磁化を与えるので特に注意が必要である。試料調製の際に,磁性源を含む金属製の器具を使用していたために強磁性体が混入し,誤ったデータを与えることも少なくない。

このように,試料由来の磁化を正しく評価するのは思いのほか難しい。正確な磁気物性評価は機能性磁石の開発に必要不可欠であり,大越研究室で報告しているキラル構造を持った光に応答する磁石や,電磁波を吸収する磁石などの機能性磁石に関する研究も,上述のような磁気物性評価をもとに成されたものである。

 

 

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