インドの地で感じた物理オリンピックの裏側

東川 翔(物理学専攻 修士課程2年生)

遠方見聞録というと学生が海外の大学で研究をした経験を語る箇所であるが,今回は一味違う。今回の遠方見聞録は,私が2015年7月に第46回国際物理オリンピックインド大会に引率役員として参加した時の記録である。普段大学院で研究をしている自分にとって,科学教育に携わる人々との交流は新鮮な体験だった。

国際物理オリンピックは,高校生向けの国際的な物理コンテストである。各国から選ばれた最大5名の選手が,理論5 時間,実験5時間の試験問題を解いて点数を競う。2015年は82ヶ国から382人の選手が参加した。日本は2006年から参加しており,今回が10回目である。私は2009年の国際物理オリンピックに選手として参加したが,今回は日本代表の引率役員としてインド大会に参加することになった。

エクスカーションで行った石窟寺院群Kanheri Caves。中央の赤い服の方が筆者

国際物理オリンピックは約10日間の日程から成る。試験が行われるのはそのうちたったの2日間であり,選手は残りの時間,他国の選手との交流や現地の物理関係施設の見学,最先端の研究者の講演を楽しむ。これは国際物理オリンピックは参加者間の競争を主たる目的とするものではなく,コンテストを通して高校生に物理の面白さと魅力を知ってほしいという意図があるからである。スポーツのオリンピックではメダルは上位3人にしか与えられないが,国際物理オリンピックでは上位8% が金メダルを,銅メダルまで含めると約半分の選手が何色かのメダルを手にする。今年も日本代表5人全員がメダルを獲得した。何ともおいしい話である。

勿論日本代表の選手と言えど,英語ができるわけではない。引率役員団の役目は現地での選手のサポート,及び問題の翻訳と採点,点数交渉である。問題の漏洩を防ぐため,選手と引率役員は別の宿泊施設に泊まる。宿泊施設のレベルは年によって違うが,今回は5つ星ホテルであり,非常に快適だった。

IPhO2015開会式。式典の合間にはダンスが披露された

 

会議や翻訳作業の合間にはティーブレークとビュッフェ形式の食事があり,現地のスタッフや各国の引率役員との交流を楽しむ。会話の内容は自国の物理教育から,科学番組の監修,理科離れの問題まで様々である。今回引率役員として物理オリンピックに参加し有意義だったことは,普段話す機会のない物理教育の人々と交流できたことである。高校生の研究体験活動を自分の研究室で受け入れている大学教員や,高校の教科書と物理オリンピックの教材両方の開発に取り組んでいる官僚,自国の教育のレベルを引き上げようと科学オリンピック活動に従事する私立学校教員や,物理オリンピックへの参加をきっかけとして教員を目指している大学院生など,一口に物理教育と言ってもさまざまな人がいた。恥ずかしながらこれまで自分には教育者=学校の先生程度の一面的な認識しかなかった。なので,今回の旅を通して物理教育という広い世界の一端を垣間見,様々な目的と立場から教育に携わる人々と交流したことは,普段の大学院生活ではできない新鮮な体験だった。同時に国際物理オリンピックは選手だけのものではなく,引率役員にとっても様々な国と立場から物理教育に関わる人と交流し,議論する非常に良い機会であるのだと感じた。

最後にこのような貴重な機会を与えてくださった物理オリンピック日本委員会に感謝したい。

 
2009年 第39回国際物理オリンピックメキシコ大会に出場
2014年 東京大学理学部物理学科 卒業
  生物科学専攻修士課程 修了
現在 東京大学理学系研究科物理学専攻 修士課程2年生

 


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