国際連携研究プロジェクト立ち上げと異国の東大


入江 直樹(生物科学専攻 准教授)

「あかん,どう考えても自分達だけでは手に負えへん・・。」2011年,私は動物進化の法則性解明のため,カメのゲノムDNA 解読を目論んでいた。当時, DNA 解読装置は驚異的な発展を遂げつつあったが,それでもまだ自分達だけでは手に負えない計画だった。これは共同研究で乗り越えるしかない・・。 

3000人弱が著者として論文に名を連ねたヒトゲノム計画のようなビッグサイエンスをはじめ,生命科学分野でも国際連携による研究は増加し続けている(参考:Nature Index 2015 Global )。今回の計画でも,ノウハウをもった海外の研究グループと連携するのが手っ取り早いことは容易に想像できた。だが当時ポスドクだった私には,人件費や計画総費用を捻出する予算もなければ,連携できる研究者仲間もいない。「あかん,無謀すぎたかな・・。」しかし,そもそも最初からすべてが揃っていることなんてないのである。そんな気持ちだけで,なんのつてもないまま,まずはゲノム研究者たちが集まるアメリカサンディエゴの国際会議に,同僚と2人で乗り込んだ。

中国・上海にあるCAS-MPG Partner Institute (中国科学院とドイツマックスプランク研究所によるパートナー研究所)。東大の建物そっくりだが東大ではない。それもそのはず。本学の内田祥三元総長によってデザインされ,1930年に建てられたものなのだ (左下写真)。内装や中庭まで建築美を大切に護りながら使われている。(写真提供:国頌, Philipp Khaitovich 研究室)

ビジネスや政治の世界と違って科学の世界はある意味シンプルだ。科学者は好奇心が掻き立てられれば力を合わせてくれる,好奇心で動く世界。私は乗り込んだ会場で学会要旨集を手に相手を探し出しては,あつかましくも研究プロジェクトの立ち上げ意義を熱く話した。

「カメは甲羅を脱げません。背骨と肋骨が背側の甲羅になっているためです。腕の位置も例外的です。でもこの例外的なカメの進化を理解することで,動物全般の進化の法則性がみえてくるんです!」

ただし,何でもかんでも「面白そうですね」と表面的な同意をする人はお断りした。真意がみえにくい相手とは,結局分裂するからだ。手持ちの予算が十分ではなかったので,「金はいくら持ってるんだ?論文の責任著者をこちら側にもらえるか?」というド直球の現実的な質問には冷や汗が出てしまったが,こういう現実的な点を率直に話しておくのはその後の連携維持にとっても重要だった。

もちろん,学会会場で研究室主催者と話すだけではうまくいかない。自分だったら,ボスだけが好奇心を掻き立てられている研究計画に労力を割くのは御免だ。私は,イギリスや中国,ドイツ,日本など,実際に手を動かしてくれる現地メンバーのところに出向き,詳しく構想を話して回った。

こうして,幸運にも30名強の学者が最終的に協力してくれることになり,国際カメゲノムコンソーシアム始動となった。こうなれば運命共同体。大規模解析装置や人員,予算まで積極的に投入してくれることとなった。アメリカに現れたライバルグループとどう接していくか,著者の順番や投稿先の雑誌をどこにするかなど悩む場面もあったが,どの場面でも恩師がアドバイスしてくれた指針が役に立った。「リーダーシップは,議長をやることだと勘違いしちゃだめだ。全員の妥協点を探すのではなく,全体のメリットを考えて,たとえ全員が反対しても説得するつもりでやるんだ。」おかげで,2年ほどの歳月で論文掲載まで首尾良くこぎ着けることができた。

当時のプロジェクトの関わりから,別の国際連携プロジェクトも生まれている。最後に,その関係で時折お邪魔している中国・上海にある建物を紹介したい(図)。異国ながらも東大にいるような感覚になる不思議な現場だ。

 

理学の現場>

 


  • このエントリーをはてなブックマークに追加