地底生命の探求 


鈴木 庸平(地球惑星科学専攻 准教授)

「地底旅行」はフランスの小説家ジュール・ヴェルヌの作品で,鉱物学を教える大学教授が骨董屋で見つけた本にはさまれたメモに書かかれた暗号を解読し,火口から地球の中心に向けて出発する。地底で大空間を発見し,そこには海や地上で絶滅した生物が生き残る世界が描かれている。科学的根拠を伴わない空想の地底像ではあるが,人々の好奇心を集める対象であると言える。実はそんな地底に直接人が行き,地底の岩や鉱物だけでなく水や生き物も調べられる施設が,日本にあるのをご存知な方は少ないかもしれない。

一つは北海道幌延町に地下350メートルまでアクセス可能な地下施設があり,近くには豊富ガス田があり,珪藻の死骸が厚く堆積した地層にメタンが濃集している。もう一つは岐阜県瑞浪市に地下500メートルまでアクセス可能な地下施設(主立坑と換気立坑および100メートル間隔のステージから構成)があり,御影石でも知られる花崗岩の内部に作られている。花崗岩はマグマが地下の深いところで,ゆっくり冷え固まって形成する火成岩の一種で,多くの生き物が必要とする炭水化物やタンパク質などの有機物が元々は一切含まれない。当然生命などいる訳がないと思われるが,筆者らは極貧栄養な地底にも微生物が生息し,硫酸呼吸で生じる代謝産物の検出に成功した(理学部ニュース2015年3月号で解説)。

岐阜県瑞浪市の花崗岩体に建設された地下研究施設の概略図と深度300 メートルの坑道で,岩盤に短いボーリング孔を開けて,鉄鉱物や岩石薄片をいれて微生物を培養している現場風景

微生物をリボソームRNA遺伝子の配列に基づく系統分類を調べると,土壌には100万種の微生物が生息するのに対し,地底では200種程度あり,その大半が未だ培養のできない系統の微生物であることが判明した。更に,最先端のゲノム解析により解読されたリボソームタンパク質の配列により,三つのドメイン(真核生物・細菌・古細菌)の根に位置する全生物の共通祖先に最も近い系統の微生物が,深部花崗岩に生息する主要な微生物であることも判明した。

現在,地底環境と生息する微生物の種類およびゲノムから推定される代謝様式の相関を明らかにすることにより,地底生命の実態解明を目指している。その目玉になるのが,地下施設の岩盤に孔を開け試験管を作成し,その中に流れ込む地下水で微生物の培養を行い,全生物の共通祖先に近い微生物が地底で何を食べて何で呼吸しているのかを実証する現場実験だと考えている。

ジュール・ヴェルヌの地底への空想は,現在の科学では否定されることもあるが,地底で今も脈々と太古の生命が活動している点については正しいことが証明される日は近いかもしれない。

 

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