宇宙論研究の進展を持ち寄る,ギリシャの国際会議にて

舎川 元成(天文学専攻 博士課程3年生)

「いつデフォルトするかわからないという情勢で,ギリシャ行くのはなかなかチャレンジャーですね」との指導教員の言葉を思い出しながら,私はカタリニという小さな町に到着した。この頃のギリシャは財政問題に苦しんでおり,1日60ドルの資本規制が敷かれることになる直前の2015年5月末の話である。 

今回の目的は,宇宙物理学の中でも近年特に注目を浴びている分野である,宇宙再電離や宇宙論についての国際会議OSCER15(The Olympian Symposium 2015Cosmology and the Epoch of Reionization) への参加である。私はこの会議で,私の研究室が中心となった,日本では初となる銀河分光サーベイであるFastSoundプロジェクトについての報告を行った。

アテネ市内,古代アゴラから。奥にアクロポリス遺跡が見える

 

現在の宇宙が加速膨張期にあることは,遠方の超新星の観測などによって近年明らかにされたが,この加速膨張は,「負の圧力を持つエネルギー(ダークエネルギー)」の存在もしくは,「一般相対論の宇宙論的スケールでの破綻(修正重力理論)」を示唆する。後者の場合,重力が変更されることで,銀河の大規模構造の様子も変わることが予想されるため,数多くの遠方銀河の距離を分光観測で測定し,銀河の三次元的分布を調べることで,修正重力理論を観測的に制限することができる。

発表は英語ということで,質疑応答の時にとっさに英語が出なくもどかしい面もあったが,データ解析の詳細について何人かの人が興味をもってくれたため,発表後に議論を行うことができ,普段あまり意識していなかった事柄について改めて考える機会になった。また,再電離を研究している同期も来ており,ギリシャでの久しぶりの再会となった。お互いの研究の進展について話し,他の研究者も交えて宇宙論の最近の研究動向についての情報を得ることが出来たと思う。

会議終了後は同期と別れ,一人アテネに足を延ばした。カタリニからアテネへは特急列車が出ている。日本の電車はとても時刻が正確なのだが,それは世界的に見ると特殊である。発車時間を過ぎても電車は現れず,10分待って到着してきた電車に飛び乗ったものの,何か様子がおかしい事に気がついた。車掌に聞くと,やはり電車を間違えており,目的の電車は実はさらに遅れていたのである。日付が変わる頃にどうにかアテネに到着したが,ギリシャは夕飯が遅いので,タベルナ(taberna) が空いていて,入ることができた。タベルナというのは,その名に反して日本で言う食堂,レストランよりはカジュアルな場所である。宿は綺麗だったが,その周辺は治安が良くないらしく,かえって浮いていた。古い黄色の街灯に薄暗く照らされたシャッターの落書きは不気味で,食事を済ませると足早に宿に戻った。

今回の会議OSCER15の開催地となるMediteranean Village Hotel の外観

 

翌日は市内を巡ったが,日本人一人の旅行は楽ではなかった。正しいタクシーのメーター(アテネ市内のタクシーは定額である)の下に,小型の怪しげな黒いメーターが取り付けられたタクシーに乗り込んでしまい高額を請求されそうになり,また,パルテノン神殿付近で妙に友好的なイタリア人と話しているうちに,怪しげなバーに連れて行かれそうになるなど,ガイドブックを見て事前に心構えをしておかなければどうなっていたかと思うことも多く,電車の件も含めて,日本との違いを思い知らされた。

日本人があまり訪れないギリシャに,しかも財政事情の悪化が重なる時期に訪れるのは少し勇気が必要だったが,見聞を広げるという意味では刺激的な経験が出来たように思う。同時に,普段何気なく過ごす日本は,やはり良いものだと再認識させられた。

 
2011年 京都大学理学部卒業 卒業
2013年 京都大学大学院理学研究科物理学・
宇宙物理学専攻修士課程 修了
2013年~ 東京大学大学院理学系研究科天文学
専攻博士課程在籍
2015年~ 日本学術振興会特別研究員DC2

 


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