自己抑制の仕組みでバランスを保つ植物の根

伊藤 恭子(生物科学専攻 准教授)

福田 裕穂(生物科学専攻 教授)

 



細胞が「分化する」とは,細胞がある特定の役割をもつ細胞になることである。たとえば,植物の維管束にある道管の細胞であったら,細胞は極端に細長くなり,細胞壁は非常に分厚くなる。さらに,細胞は中身を失い,細胞壁だけが残る。このような状態を,道管の細胞に分化したという。水やミネラルなどを植物体全体へと運ぶ管としての役割を果たすために,まさに堅固なチューブのように分化したのである。そして,このように分化した細胞は細胞分裂をすることはない。

根が伸びていくために必要な細胞分裂は根の先端でおきる。ここで生まれた細胞は,次第に様々な細胞へと分化していく。道管の細胞もこのようにして生まれる。もし,道管への分化が次々とおきてしまったら,本来であれば細胞分裂をするための細胞であった細胞まで道管の細胞になってしまう。こうなると,もはや根は伸びることができない。新たな細胞が供給されないためである。このような事態を回避するためには,分化の進行具合を適切に制御する必要がある。私たちは,今回この仕組みの一端を明らかにした。

 

シロイヌナズナの根の先端における分裂と分化の領域とLHW-T5L1のネガティブフィードバック制御


遺伝子の発現を制御する因子の中でも,根の先端の中央部で鍵となる働きをする因子にLHW とT5L1 がある。LHW とT5L1 は結合してはじめて,他の遺伝子の発現を制御できるようになる。今回, LHW とT5L1 には道管の細胞への分化を導く役割があることが明らかとなった。加えて, LHWとT5L1 は,自身の機能を抑制する仕組みを併せもつこともわかった。LHW とT5L1 は,複数の遺伝子の発現制御を通して,自身の働きを抑えるための新たなタンパク質を作り出していたのである。このタンパク質は, T5L1 の代わりにLHW に結合することにより, LHW とT5L1 の機能を抑制していると考えられた。つまり, LHW とT5L1 は,ネガティブフィードバック制御を自身にかけているということである。今回の研究では, LHW とT5L1 が,道管への分化の進行に対するアクセルとブレーキの機能をあわせもつことを見出したことになる。

ここで,このネガティブフィードバック制御の重要性について一つの実験をしてみた。このフィードバックが働く状態と働かない状態とで, LHW とT5L1 を過剰に働かせてみたのである。その結果,フィードバックが働かない植物では,植物の様々な部位で道管の細胞が異所的に形成されるなどLHW とT5L1 の機能が暴走した状態となり,根は伸長することができなかった。一方,フィードバックが働く状態では,根は伸長することができた。これらの結果は,自己の機能を抑制する仕組みが,分化の程度のバランスを保ち,植物の成長を保証することを示していると考えられた。

本研究は,H. Katayama et al., Current Biology 25, 3144-3150 (2015) に掲載された。

(2015年11月24日プレスリリース)



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