土星の衛星エンセラダスに生命を育む海がある!?

関根 康人(地球惑星科学専攻 准教授)



エンセラダスを宇宙から見ると,巨大な氷の塊のように見える。2004年に探査を開始したNASAの探査機カッシーニは,重力測定によって,この天体の地下30km に南極点を中心とした深さ10km以上の広大な内部海が存在することを明らかにした。さらに,南極付近の氷には幾筋もの割れ目が存在し,そこから海水が間欠泉のように噴出していることも発見した。カッシーニはその間欠泉に突入し,海水を採取している。つまり,初めての地球外天体の海水のサンプリングを行ったのである。そして,その場で分析を行い,水に加えて二酸化炭素やアンモニア,アミノ酸の基となるような有機分子,ケイ酸塩などが含まれていることも明らかにしている。また,エンセラダスの海水には,地球の海と同様にナトリウム塩も含まれている。このことは,岩石に含まれていたナトリウムが海水に溶脱したこと,つまり内部海は海底で岩石コアと接していることを示している。

エンセラダスの海にも,生命を育む環境は存在 するのだろうか。水や有機物が存在していても, 生命が利用できるエネルギーがなくては,生命はその活動を維持することはできない。しかし,エンセラダスの地下に存在する内部海では,太陽光エネルギーを利用することは不可能である。実は 地球上でも,太陽光の届かない深海底に生命が繁 茂している場所がある。それは火山地帯に存在する海底熱水噴出孔だ。そこでは,高温に熱せられ た海水が岩石中の鉄を酸化して水素を生成してい る。この水素と周囲の海水に含まれる二酸化炭素との酸化還元反応によって,原始的な微生物はエネルギーを獲得している。

 


エンセラダス内部の様子。岩石のコアを取り巻くように液体の海が存在し,海底には熱水環境が存在する。南極付近から宇宙空間に向かって海水が噴出している(画像提供 NASA/JPL)


私たちはカッシーニ探査チームと共同で,エンセラダスの内部海を模擬した高圧熱水実験を行
い,熱水噴出孔がエンセラダスに存在するのかを調べた。特に,我々は噴出した海水に含まれていた,ケイ酸塩の1つであるナノシリカに着目した。通常ナノシリカは,岩石と触れ合った熱水が冷却したとき,溶存したシリカが析出することで生成する。熱水実験の結果から,ナノシリカが生成するためには, 100℃以上の熱水環境が必要であることがわかった。また,岩石の組成が地球のマントルのような組成ではなく,隕石に近いこともわかった。このような環境では,生命にとってエネルギーとなる水素も豊富に生成されるだろう。

エンセラダスのみならず,火星も含めて,地球外生命の発見という人類科学における究極のゴールが,次世代探査における現実的な目標となりつつある。地球惑星科学のみならず,物理学,化学,生物科学といった理学が分野の垣根を超えて,宇宙における生命という問題に真正面から向き合うことが求められているといえる。

本研究は, Hsu, H.‐W., Postberg, F., Sekine, Y. et al .,Nature 519, 207(2015),Sekine , Y.et al . , Nature Communications 6:8604 (2015) に掲載されました。

 

(2015年10月28日プレスリリース)



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