ちょっとした工夫で細胞分裂の挙動を見る

塚谷 裕一(生物科学専攻 教授)


多細胞生物の体では,あちこちで細胞分裂がおきている。この細胞分裂は,でたらめではない。決まった形とサイズの器官,組織,そして体を作るためには,細胞分裂の角度と頻度は,ある決まった範囲に収まっている必要があるからだ。

しかしそうかといって,縦の次は横,横の次は斜め,のような決まった順番で細胞分裂がなされるのかといえば,これもそうではない。受精卵の卵割のようなごく初期段階での分裂や,特定の組織における分裂ではそういう事例も見られるが,たいがいの組織内の細胞分裂は,それほど決まり切った順番と角度でなされていないのである。

となると,その挙動やその仕組みを知りたくなるが,各細胞が一見ランダムに分裂しているため,その方向を一つ一つ確かめるのも大変な作業になる。しかも細胞ごとに分裂するタイミングがまちまちのため,全体のようすを知るのも一苦労だ。これまで,いろいろな研究者がいろいろなトリックを使って解析をしてきたが,その技法はいずれも時間がかかったり,遺伝子組み換えを必要としたりと,汎用性が乏しいものであった。

 


新手法で見たシロイヌナズナの葉の原基。2つ並んで緑に光っているのは,1 つの細胞核から分裂してできた娘核のセット。核の間の短い補助線は,それぞれのセットの境界面を示す。この境界面を見ることで,分裂の方向が一目瞭然で分かる。背景で薄く青く染まっているのは, この間に分裂をしなかった細胞の核。左上の拡大図は,2 つの娘核とその境界線(短い線),そして分裂した方向(矢印)を示す。Yin and Tsukaya(2016) より改変


いっぽう,私たちは葉の形態形成の仕組みを知る目的で,少し以前から,生物が間違って
DNAに組み込んでしまう性質のある化合物EdU(5-ethynyl-2'-deoxyuridine)を使って,葉の発生途上での細胞分裂頻度を確かめてきた。チミジンのアナログであるEdUはDNA に取り込まれた後も安定であるため,その官能基を利用することで,EdUを保有する細胞核を蛍光標識することができる。しかし単純にこれを取り込ませるだけでは,組織が輝く細胞核で満天の星のようになってしまい,空間的な分裂活性の疎密は分かるものの,個々の細胞の挙動までは分からない。

そのうちにふと思いついたのが, EdUを短時間だけ与えれば(パルス投与と言う),パルスの間にDNA 合成した細胞だけが標識され,しかもそのあとEdU なしの状態で適当時間待てば(チェイスと言う),分裂して2 つに割れた核の対が選択的に検出できるだろうというトリックである。やってみると,これは期待通りで,2 つづつ並んだ核が,組織の中にきれいに検出されたのだ。これで,核の対から容易に細胞分裂の角度が分かるようになった。

その後,実験条件を検討して最適化した結果,シロイヌナズナの葉の発達中に,どの部分でどのように細胞分裂の角度が制御されているか明らかになった。この方法の応用範囲は広く,植物でも動物でも何にでも使える。簡便で時間も短時間で済むため,今後,利用実例が増えてくるものと期待している。

本研究は,Yin and Tsukaya (2016)NewPhytologist. 211,(4)に掲載された。

(2016年5月6日プレスリリース)



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