生命科学の未来を切り拓く「はさみ」

山野 峻(生物科学専攻 博士課程2年生)

西増 弘志(生物科学専攻 助教)

石谷 隆一郎(生物科学専攻 准教授)

濡木 理(生物科学専攻 教授)

 

 

 


原核生物はCRISPR-Cas 系とよばれる免疫機構をもち,ファージなどによる感染から自身を保護している。Cas9はII 型のCRISPR-Cas系にかかわるタンパク質であり,ガイドRNAと複合体を形成し,ガイドRNAの一部(ガイド配列)と相補的な2本鎖DNAを特異的に切断する。したがって,ガイド配列(約20 塩基)を変更することにより,ゲノムDNAの任意の標的配列を選択的に切断・改変することが可能である。2013 年, Cas9を応用したゲノム編集の成功例が報告され, Cas9は効率的なゲノム編集ツールとして広く利用されている。生命科学研究の現場においてCas9を用いた遺伝子ノックアウト技術は欠かせない存在となっており,さらに,ゲノム編集によりマウスの筋ジストロフィーが回復したという遺伝子治療の成功例も報告されている。

 


Cpf1- ガイドRNA- 標的DNA 複合体の結晶構造。原子座標に基づくコンピューターグラフィックを示した。ガイドRNA(crRNA)と標的DNAが形成する二重らせんがCpf1 により認識されていることがわかる


2015年,V 型のCRISPR-Cas 系に関与する新規のDNA 切断酵素Cpf1 が発見された。Cpf1 はCas9と異なる特徴をいくつかもつ。まず, Cas9 は2種類のガイドRNAを必要とする一方, Cpf1は1種類のガイドRNAのみを必要とする。さらに,切断後のDNAの「切り口」も異なる。Cas9は両方のDNA鎖がそろった平滑末端を作るのに対し, Cpf1は片方のDNA鎖が突出した突出末端を作る。2014年にCas9の立体構造が解明されていたが(Nishimasu et al ., Cell 2014;Anders et al ., Nature 2014), Cpf1 の立体構造は不明であり,その作動機構は謎に包まれていた。

Cpf1 によるDNA切断機構の解明を目指し,我々はCpf1のX線結晶構造解析に着手した。細菌Acidaminococcus sp. に由来するCpf1タンパク質とガイドRNAおよび標的DNAからなる複合体を精製,結晶化し,大型放射光施設SPring-8およびSwiss Light Source においてX線回折データを測定し,複合体の結晶構造を決定した。その結果, Cpf1はCas9とは大きく異なる立体構造をもつことが明らかとなり,両者のあいだの機能的な違いを原子レベルで説明することができた。特に,標的DNAを切断する「はさみ」としてはたらく部分の構造と配置が大きく異なっていた。この違いはCpf1とCas9によるDNAの「切り口」の違いとよく一致していた。今回の研究成果は, Cpf1を改変した強力な新規の研究ツールの開発につながることも期待される。

本研究は, Yamano et al. , Cell 165(2016)に掲載された。

(2016年4月22日プレスリリース)

Cpf1- ガイドRNA- 標的DNA 複合体の結晶構造。原子座標に基づくコンピューターグラフィックを示した。ガイドRNA(crRNA)と標的DNAが形成する二重らせんがCpf1 により認識されていることがわかる。



学部生に伝える研究最前線>

 

 

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