単結晶ハードフェライト棒磁石

大越 慎一(化学専攻 教授)


酸化鉄からできたフェライト磁石は,古来より広く用いられてきており,現在では,自動車用部品,モータ,磁性流体などの産業用途から,玩具,工芸品などの日常の生活にも使われている。一般に知られている棒型形状をしたフェライト棒磁石は,磁性粉を固めて加熱成形した後,磁場を印加して製造するため,粒界や欠陥が多く,磁壁で囲まれた磁区の磁極がいろいろな方向を向いた多磁区構造をとっており, N 極とS 極が一対だけ存在する単磁区構造を作れないという課題があった。

 


(a) ε-Fe2O3の結晶構造。八面体はFeO6,四面体はFeO4。(下図) 結晶のa 軸方向に成長したε-Fe2O3。(b) 原子間力顕微鏡像(白黒) と磁気力顕微鏡像(赤青) を重ね合わせた像。(c) 開発したε-Fe2O3 探針プローブの模式図と先端部の走査型電子顕微鏡像(上図)。ε-Fe2O3 探針プローブを用いた市販のHDD のデモ観察では,磁気力顕微鏡像が得られ(中図),磁気記録ビット(下図) が観測された


今回私たちは,大きな保磁力*を有するイプシロン型- 酸化鉄(ε-Fe2O3) と呼ばれる物質の単結晶のフェライト棒磁石を合成することにより,単磁区構造を有する,数百ナノメートルから1 ミクロン程度のサイズの単結晶フェライト棒磁石を開発した。このε-Fe2O3 フェライト棒磁石は,外部から強い磁場が印加されても磁極が反転しにくく,その保磁力は,25 キロエルンステッド(kOe) と市販のフェライト永久磁石(3 ~ 5 kOe)と比べて極めて高い。また,絶縁体であるため電流も流れず,化学的にも安定で錆びることがない。このようなε-Fe2O3 フェライト棒磁石の特徴を活かして,磁石表面を観察できる磁気力顕微鏡の探針プローブの開発を行い,市販のハードディスク表面の磁気記録ビットを観察した。このε-Fe2O3 フェライト磁気力顕微鏡は,これまで測定が困難であった強力な磁石の表面や,強磁場下での観察が可能になると期待されている。また,電磁波吸収測定を行った結果, 181ギガヘルツ(GHz) という極めて高い周波数のミリ波を吸収することが明らかになり,ε-Fe2O3 フェライトフィルムの開発も行った。ε-Fe2O3 フェライトは,ビッグデータ時代に向けた高密度磁気記録用部材として期待されているほか,超高速無線通信用の高周波ミリ波吸収部材として, IoT(Internet of Things)社会に貢献する新素材としても脚光を浴びており, 2016 年7 月より英国立ロンドン科学博物館にて特別展示されている。
 
本研究は, S. Ohkoshi et al. , Scientific Reports , 6, 27212 (2016) に掲載された。

(2016年6月7日プレスリリース)

※保磁力とは,磁極を反転させるために必要な外部磁場の大きさである。私たちは2004 年にε-Fe2O3 がフェライト磁石として最大の保磁力を示すことを初めて見出した。



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