新たな調査地の開拓 - ベトナムの例 -

對比地 孝亘(地球惑星科学専攻 講師)

化石となった生物を研究する分野である古生物学の重要な基礎の一つは野外調査である。私の専門とする恐竜の化石は世界各地から見つかっており,私も2002年から8年間にわたりモンゴルのゴビ砂漠での野外調査に参加してきた。諸々の事情でここ数年間その活動から離れていたが,そんな時にお話をもらったのがベトナムでの調査であった。ベトナムでは,熊本大学の先生が10年以上にわたり古生物学や堆積学の調査を行っているが,その先生からベトナムでの恐竜化石調査のお誘いを受けたのである。よく伺ってみると,ベトナムの自然史博物館が,お隣のラオスで恐竜が見つかっているのでベトナムでも恐竜の化石を発見したいということで協力を要請してきたらしい。まだ化石が発見されていないところで恐竜研究のパイオニアになれるかもしれないという大きな希望(野望?)を胸に,二つ返事で調査に参加させてもらうことになった。

北部ベトナムの調査地周辺は植生が豊かである。伝統的な高床式の家が多く見られる

ところが実際に調査を開始してみるとやはり甘くはない。まずは気候である。調査地域はベトナムの北部なので,南部の熱帯気候と比べると穏やかなはずであるが,やはり気温は高い。私はゴビ砂漠での調査を通じて気温に対する耐性には自信があったはずなのだが,年をとったせいか,あるいは砂漠とは違う湿度の高さのせいか,かなりバテやすい。それでも良い化石が見つかればそんな苦労は吹っ飛ぶのであるが,肝心の化石が見つからない。もちろん恐竜化石が見つかりそうな時代(とは言っても「ジュラ紀から白亜紀の間のどこか」というような,日本では考えられないような大まかな時代区分しか判明していないのだが)と地層(恐竜は陸上で生活していたので,河川の周辺など陸で形成されたもの)を集中して調査しているのだが,骨はおろか,二枚貝などの他の化石すら見つからない。地層が露出しているのは道路の切り通しか川沿いに限られるので,主にその断面しか見えないという状況も,化石の発見を難しくしている。結局これまで2年間で3回の調査を行ったのだが,恐竜の化石はまだ見つかっていない。今まで発見されていないところなので,まあ当たり前といえば当たり前かもしれない。

こう書くと悲観的なことばかりに思えるが,もちろん良いことはたくさんある。まず,野外で調査しているということだけで幸せである。特に,大学にいたらメールの対応や会議に追い回されるのが関の山なので,それと比べればまさに天国である。またこの調査のご縁で,私の所属する地球惑星環境学科の3年生の授業(野外巡検)をベトナムで行わせてもらった。古生代デボン紀や石炭紀の地層やハロン湾のカルスト地形など,日本ではなかなか見られない地学現象の観察ができ,大変充実した巡検であったが,これは調査を一緒にしている熊本大学の先生やベトナム人研究者の現場での助けがなければ不可能であった。研究の方も,上記のように私のベトナムでの野外調査は始まってまだ2年とちょっとであるが,恐竜以外にも上部三畳系の海生爬虫類化石の発見が期待される場所もあるので,そのようなところも含めて根気強くもう少し粘ってみたいと考えている。

 

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