「京」での先端原子核多体計算とニュートリノ質量

大塚 孝治(物理学専攻 教授)


物質は原子の集まりで,原子は原子核と電子から構成される。原子核は多数の中性子と陽子から成る。図の上半分に示されているように,中性子は「ベータ崩壊」という現象により陽子と電子に変わる事がある。その際にニュートリノの反粒子である反ニュートリノが放出される。ニュートリノの素性には分かってない事が多く,その一つがニュートリノと反ニュートリノは同じ粒子か(マヨラナ粒子仮説),違う粒子か(ディラック粒子仮説),という問題である。粒子と反粒子はお互いに相手を消滅させるので,一つの粒子が両方の性質を持つ事は,信じられないような奇妙なことである。しかし,ニュートリノでは起こり得るし,多分そうであろうと信じられている。反ニュートリノが1個でいる限り,これは大した事ではなさそうだが,2 個の中性子が同時にベータ崩壊すると,つまり二重ベータ崩壊が起こると大問題となる。2 個の反ニュートリノの内,1 個がニュートリノのように振る舞い,2 個が互いに消滅し合う。陽子2 個は原子核に残り,電子2 個だけが放出される。それが図の下半分に示されている「0(ゼロ)ニュートリノ二重ベータ崩壊」と呼ばれる現象である。それを観測し,それが起こる頻度を測定することによって,この過程の半減期が分かる。その半減期をニュートリノの質量に結びつけるのには核行列要素が必要で,関係式が図に示されている。

 


「京」(提供:理化学研究所)


核行列要素の計算は決して簡単ではない。図にあるように,二重ベータ崩壊をする前の原子核は多数の中性子や陽子が量子論に従って塊になっている。その中から,中性子2 個を抜き出し二重ベータ崩壊により陽子2 個に変え,崩壊後の原子核に作り替える過程の,言わば起こりやすさを計算する。該当する2 個の中性子や陽子だけでなく,他の多くの中性子や陽子も関わるので,非常に大規模な数値計算になる。それを実現するには高性能のスパコンだけでなく,その性能を活かす量子多体系の物理理論や計算機コードが必要である。


ベータ崩壊と0 ニュートリノ二重ベータ崩壊の概念図


このような数値計算は元々は原子核の量子構造を探究するためのものであった。一方,原子核の性質が分かると,この例のように他の様々な分野で役に立つ。そのためにも,さらに大型の計算をすべく研究が進められている。ニュートリノの質量は宇宙の進化にも関わり,その精密な決定は大きな意味を持ち,核行列要素も精度よく決める必要がある。0ニュートリノ二重ベータ崩壊の実験は他にもいくつかの原子核で行われているが稀にしか起きない現象なので観測は成功していない。それらの核行列要素の計算も含め私達の研究は続いている。
 
本研究は, Y. Iwata.et al ., Phys. Rev. Lett. 116, 112502(2016) に掲載された。

(2016年3月17日プレスリリース)

※半減期:ある確率で物体Aが時間の経過とともに物体Bに変わる場合,初めにN個あった物体Aが半数のN/2個になるまでの時間。



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