分子系統地理学に正確な「根」をもたらす

平瀬 祥太朗

(農学生命科学研究科 助教) ※注

岩崎 渉 (生物科学専攻 准教授)

 

 


生物は共通の祖先から分岐を繰り返すことで多様化する。この「枝分かれ」の様子を樹木になぞらえて表現したものが系統樹である。現在では,DNA 配列の情報を用いて構築された分子系統樹が多く用いられ,分子系統地理学においても重要なツールとなっている。分子系統樹は例えば生物が分岐した年代の推定に用いられるが,そのためには外群(対象の生物集団ではないが,近縁な関係にある生物)のDNA 情報を用いて分子系統樹の根(対象の生物集団と外群が分岐する位置)を決定する「ルーティング」を正確に行うことが重要となる。しかしながら,ルーティングは,とりわけ,ごく近縁な集団の遺伝的関係の解析を行う分子系統地理学においては困難であった。

ミトコンドリアDNA は,母系遺伝し,進化速度が速く,組み換えを起こさないという特徴を持ち,生物集団の分岐プロセス(系図)を辿りやすいため,分子系統地理学においてよく用いられる。これまでは,コストや時間の制約からその部分配列のみを解析することが行われてきたが,全塩基配列(ミトゲノム)の情報を多個体について一挙に取得し,その情報をすべて解析すれば,ルーティングを正確に行うことができるのではないだろうか?私たちはそう考え,新型のDNAシーケンサーを用いて多数のミトゲノム情報を高速かつ低コストで得る手法によって,解析を行った。

 


ミトゲノムを解析に用いたことで日本海系統のルーティングが安定し,北部系統と南部系統が存在することが明らかになった


今回解析の対象としたのは,ハゼ科の海産魚であるアゴハゼのうち,現在,日本海に分布する系統である。ミトコンドリアDNA の部分配列のみを用いた従来の研究ではルーティングは不安定であったが,新たに得られたミトゲノムデータを解析したところ,ルーティングの安定した信頼性の高い分子系統樹が得られた。その結果,これまで知られていなかった日本海系統内の北部系統と南部系統の存在が明らかとなり,このうち北部の系統は過去に急拡大した一方で,南部の系統は拡大しなかったことが明らかとなった。さらには,約350 万年前に日本海南方の対馬海峡が開いた時期にアゴハゼが日本海に侵入し,それ以降の日本海の隔離によって,太平洋側と日本海側の集団を分断したことが考えられた。

この地球上の環境変動と生物の歴史とは密接に関係している。ミトゲノムを用いた分子系統地理学は,その関係をより精緻に解明していくだろう。

本研究は,S. Hirase.et al .,Genome Biol.Evol. 8(4), 1267-1278 (2016) に掲載された。

※注 2015年まで生物科学専攻 特別研究員

  

(2016年4月26日プレスリリース)

学部生に伝える研究最前線>

 

 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加