乱流の発生で見えた相転移の普遍法則

玉井 敬一

(物理学専攻 博士課程2 年生/日本学術振興会特別研究員)

佐野 雅己

(物理学専攻 教授)

 

 


乱流遷移の研究史は1883年まで遡る。レイノルズは,パイプ中の流れの観測結果を「レイノルズ数」という一つのパラメータで整理して,レイノルズ数が2,000前後で乱流に遷移することを見出した。これにより,不規則で捉えどころがないように見えた乱流遷移の問題に,「流れは,どのようにして,あるレイノルズ数(臨界レイノルズ数)で乱流に遷移するかを解明する」という具体的な目標が設定され,今に至るまで精力的な研究が行われている。

整った流れ(層流)は,流体の運動を記述する運動方程式(ナビエ・ストークス方程式)の解の一つである。しかし,もし層流に少さな乱れを加えたとき,その乱れが成長してしまうならば,層流は実際には見られないはずである。「微小な乱れに流れがどう応答するか」については,理論的手法が確立されており,熱対流ではその枠組みの延長で,カオスと呼ばれる時間的に乱れた状態へ遷移する普遍的なルートが明らかになっている。しかし,パイプ流や2枚の平行平板の間の流れ(チャネル流)の場合,理論的な臨界レイノルズ数は,実験値に比べて桁違いに大きい。つまり,実験結果を理解するには「大きな」乱れに対する応答を考えなくてはならず,これが問題を困難にしている。では,このような場合,遷移に普遍的な法則はあるのか?この問いに「Yes」と答えるのが私たちの実験結果である。

巨大なチャネル流実験装置を製作し,チャネルの入口で流れを乱すと,乱れた流れは局在したスポットになり,層流部分と共存して流れてゆく(図)。私たちは,この共存の様子を長時間観測し,乱流スポットが空間に占める割合や,定点観測で得た層流状態の持続時間分布を様々なレイノルズ数で調べ,これらの量が臨界レイノルズ数からの差に対してベキ乗則に従うことを見出した。臨界点の近傍で物理量がベキ乗則を示すのは,たとえば強磁性体が常磁性体に相転移するときに見られる「臨界現象」とよく似ている。臨界現象を示すシステムでは,たくさんの原子や電子が相互作用により協同的に振る舞うため,運動方程式を解くことはできないが,その振る舞いは簡単なモデルによって説明できる。実際,私たちは,実験で得られた指数が,有向浸透(directed percolation) という,局在した乱流が減衰する過程と周囲の層流を侵食して拡がる過程のせめぎ合いをあらわすモデルが示す臨界現象の指数とよく一致することを明らかにした。


実験で可視化された乱流スポット


今後さらなる実験や理論で正しいことが確認されれば,乱流遷移の本質は有向浸透だったということになる。相転移・臨界現象の統計物理学と流体力学が協働することで,乱流遷移の問題は今,レイノルズが遺したパズルを完成させるステージに入った。

本研究は,M. Sano and K. Tamai., Nature Physics12,249 (2016) に掲載された。

(2016 年2 月16 日プレスリリース)

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