異分野融合がセレンディピティを引き起こす

合田 圭介(化学専攻 教授)
三上 秀治(化学専攻 助教)

われわれは現在,超高速・超高精度な細胞検索エンジン( いわゆる細胞のGoogle)の開発を行っている(図)。われわれの目標は,無数の細胞の中にごくわずかに存在する希少な細胞を検出する技術を開発することであり,例えば血液中のがん細胞を検知してがんの超早期診断に用いたり,藻類の中から突然変異により脂質を多量に蓄えた希少な個体を見つけ出してバイオ燃料の開発に応用したりするなど,幅広い分野での応用が可能な夢の技術である(「内閣府総合科学技術・イノベーション会議が主導する内閣府革新的研究開発推進プログラム( ImPACT)」)。これを実現するためには,異分野(光科学,分析化学,通信工学,分子生物学など)の技術の粋を結集し,それらを融合させる異分野融合型の研究が必要である。具体的には,無数の細胞を観測しやすいように整列させ,かつ所望の細胞を正確に取り出すマイクロ流体技術,細胞を超高速に観測する光計測技術,観測信号(画像など)を超高速に処理し,所望の細胞かどうかを瞬時に判別する情報処理技術など,各分野における最先端の技術を開発するとともに,それらを統合したシステム開発が求められる。このため,本プログラムに参加する研究者は,自身の専門分野で世界最高の技術の開発に心血を注ぎつつ,異分野の研究者との協力のもと,予期しない新しい発見(セレンディピティ)を目指して日々研究に励んでいる。

 

     
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筆者らが進める「細胞検索エンジン」の開発

 

筆者のひとりである三上は,本プログラムの一貫で,異分野の融合により世界最高速の蛍光イメージング技術の開発に成功した。今後,医学者や藻類の研究者との共同研究により,この技術を実用的なレベルに高めていく予定である。このような研究は非常に広範囲な専門知識が要求されるため,異分野の研究者との共同研究が効果的である。

異分野融合型の研究は刺激的のひと言に尽きる。三上が世界最高速蛍光イメージングを開発し
たのと同時期に井手口拓郎助教が世界最高速の分光測定技術の開発に成功し,さらにすぐ傍では合田が開発した世界最高速イメージング法を用いた血液や藻類の巨大データベースが構築され,着々と実用化に向けて進展している。これらの技術はある意味で競争関係であり,みな周囲から刺激を受けながら研究を行う。一方で,今後これらの最先端技術は融合され,誰も見たことのない希少な細胞を探索するツールとなる。現場の研究者でなくてもわくわくするような話である。

さて,このような魅力的な研究環境の背後には,合田の立場である,異分野融合型研究を束ねるリーダーの存在が欠かせない。異分野融合型研究は,異なる分野で異なる興味を持った研究者たちがひとつのゴールを目指す研究であり,ゴールを示して全体の方向性を定めることがリーダーの最も重要な役割である。このため,リーダーには異分野をつなぐコンセプトを提案する能力や,それを各分野の研究者にわかりやすく伝える能力,多くの研究者を統括するマネージメント能力など,通常の研究者とは異なったさまざまな能力が要求される。また,異分野融合型研究において足かせとなるツリー型の縦割り構造(職位,年功序列,承認制度など)を徹底的に破壊し,横の連携を強化するために,ウェブ型組織を構築する能力がリーダーに求められる。今後,研究分野の細分化が進む中,ますます異分野をつなぐリーダーの重要性が高まるだろう。研究者を目指す意欲的な学生諸氏には,リーダーを志向することを強く薦めたい。

 

1+1から∞の理学>

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