金属クラスターの結合の階層性を捉えた!

佃 達哉(化学専攻 教授)


金属の塊を数ナノメートル以下まで微細化してできた「金属クラスター」は,特殊な幾何構造をもち,特異な電磁気的・化学的性質を示すことから,新しいデバイス・センサー・触媒の機能単位として注目されている。金属クラスターが特異性を発現する要因として,表面の割合が大きいことが挙げられる。金属の塊では表面の原子数の割合は内部の原子数に比べて微々たるものだが,金属クラスターでは半数以上の原子が表面を占めている。その結果として融点が低下することは,理解しやすいであろう。例えば,金の塊では1つの原子の周りに12個の原子が整然と配列した細密充填構造を取っていて,これを融かすためには1000度以上の温度をかける必要がある。一方,金属クラスター表面の原子はたかだか3-9個程度の原子としか結合していないので,ずっと低温で融けてしまう。金属クラスターを加熱していくと,表面から融解が始まって最後に内部が融けるのである。つまり,金属クラスターの中には柔らかい結合と硬い結合が混ざっていると予想されるが,どの結合が硬くてどの結合が柔らかいかを実験的に
示すことは大変に難しい。これは,金属クラスターの内部構造や表面状態を精密に制御することが難しいためである。そこで我々は,硫黄を含む有機配位子であるチオラート (RS) によって表面が修飾された3 種類の金クラスターAu(SR)18, Au38(SR)24, Au144(SR)60 を化学的に合成し,その結合の階層性をX 線吸収分光法によってはじめて明らかにした。


チオラート保護金クラスターAu25(SR)18の幾何構造(左上)とその内部の結合の種類と強さの序列(下段)。Au13 核の表面上の短いAu-Au 結合とAu-S 結合をつないでできる剛直な環状構造(右上)が, Au25(SR)18 の構造のなかに埋もれていることがわかる。すべての図で, R の部分は簡略化のため省略している。

 

以下ではAu25(SR)18 を取り上げて内容を紹介する。これまでの研究によって,(SR)18 が正20面体構造のAu13 を核として持ち,その表面をホッチキスの針のような形をした6 つの-SR-Au-SR-Au-SR-錯体が覆った構造をもつことがわかっている(図)。我々は大型放射光施設SPring-8 (兵庫県播磨)において,金原子のみが吸収できる波長のX 線を用いてAu25(SR)18 の吸収スペクトルを8-300 Kの範囲で温度を変えながら測定した。得られたX 線吸収スペクトルを解析し,金原子に隣接した原子の種類・数・距離(結合長),および各結合の硬さの指標となる熱振動因子を求めた。その結果,表面の金-硫黄結合が, Au13核の金-金結合よりも硬いことがわかった(図)。また, Au13核の法線方向に分布した金-金結合は金塊での金-金結合よりも長くかつ柔らかく,一方動径方向に分布した結合は短く硬いことがわかった。さらに,堅い金-金結合はAu13 核の動径方向だけでなく法線方向にも一部分布しており,これが表面の金-硫黄結合と剛直な環状構造を形成していることを見出した(図)。チオラート保護金クラスターが他の有機配位子で保護された金クラスターよりも高い安定性を示すのは,この剛直な環状構造が構造を規定する骨組みとして働いているためであると考えられる。本研究の成果を契機として,今後金属クラスターの階層構造と安定性の起源に対する理解が深まるものと期待される。

本研究は, Seiji Yamazoe.et al .,Nature Communications 7,10414 (2016) に掲載された。

(2016年 1 月 18 日プレスリリース)

学部生に伝える研究最前線>

 

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