ディーンと三崎臨海実験所

對比地 孝亘(地球惑星科学専攻 講師)

私が担当している古生物学の授業で必ず出てくる化石の動物の一つに,クラドセラケ(Cladoselache)というデボン紀の軟骨魚類がいる。一見すると現生のサメ類に似た体のフォルムをしているが,顎の骨格などに原始的な形態を残しているので,脊椎動物の進化を語る上で欠かせない種の一つである。このクラドセラケを命名したのが,20世紀の初頭に活躍したアメリカ人のバシュフォード・ディーン(BashfordDean)である。ディーンは,軟骨魚類や板皮類などの研究者であると同時に,中世の甲冑の収集や研究でも知られる人物であるが,三崎の臨海実験所にも滞在して研究を行っていた。その体験記がPopular Science Monthlyという雑誌の1904年7月号に載っている(BiodiversityHeritage Libraryなどオンラインデータベースにおいて閲覧可)。その中でディーンは,臨海実験所は戦国時代の城跡で,戦国武者の亡霊が現れるので人が寄り付かない場所につくられたという記述をしている。私が学生の時の臨海実験所での実習の折にも,ここには幽霊がでるという話を聞かされて,夜になると怯えていた記憶がある。それは明治時代も同じであったようである。またディーンは,三崎の周辺で採集される海産動物についても述べており,その中には地球惑星科学専攻において現在も研究されている腕足動物のシャミセンガイなどが挙げられている。ディーンはそのような三崎周辺の海産動物の多様性と,彼の世話をした日本人の親切さを讃えてその文章を結んでいる。両方とも時代を越えて守っていかなければならない日本の誇る財産である。

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三崎の城ヶ島沖から採集されたシャミセンガイ(殻長11mm,地球惑星科学専攻 遠藤 一佳 教授提供)

 

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