アドリア海の東,ブラチ島に集うヒトの多様性

齊藤 真理恵(生物科学専攻 博士課程2 年生)

Japanが実は日本という本名をもっているように,東欧の国,クロアチアも本名は,フルヴァツカ(Hrvatska)という。2015年初夏,博士課程2年の私は国際会議で研究発表をするべく,クロアチア・ブラチ島へ向かっていた。首都ザグレブから港町スプリトへと走る列車の中,車窓には緑の風景が広がっていた(右図)。向かいの席では,長い髪の少女―演劇学校に合格したばかりとのことだ―が,小さな桃のような果実を食べていた。

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首都ザグレブから港町スプリトへと走る列車の車窓から見た緑の風景

第9回応用生物科学国際会議(9th InternationalSociety for Applied Biological Sciences Conference)は,遺伝学を用いる医学(パーソナルゲノム医療など)と法医学(DNA鑑定など)と人類学(人類集団のルーツ探求など)の研究者らで共催されていた。ここで私は,細胞の解毒をになう酵素遺伝子の個人差についての研究発表をおこなった。他の研究者の発表も多彩で,「カースト制度がヒトの遺伝的多様性に与える影響」や,「文豪の墓地に埋葬されているのは本当に本人なのか確かめる」など,社会とかかわる学際的な研究発表も多かった。さらに本会議は若手育成の意図ももつらしく,「Meet the professor」という企画において,贅沢なことに学生限定で,著名な人類遺伝学者たちと一対一で議論をすることができた。ここで,大御所のマーク・ストーンキング(Mark Stoneking)博士から研究ヒストリーをうかがったり,1000人ゲノム解読計画に携わったヤーリー・シュ(Yali Xue)博士から,私自身の研究に関する最新の解析方法を教わったり,興味深かったマーク・ジョブリング(Mark Jobling)博士の講演に対しての質問に丁寧に答えていただいたりすることができた。

おそらく東洋からの参加者は他にいなかったが,その分欧州のさまざまな人と触れあうことができた。ポルトガルから来た,ある法医学生は日本のマーシャル・アーツに詳しかった。彼はブラジルの日本人街に行ったことがあるそうで,そこで「マトリョーシカのような,目のない人形」を購入したとのこと。その人形は何かと聞かれ,絵を描いてもらい,そのうちにやっとダルマのことだと分かり一安心。

また,滞在中幾つかのクロアチア語を覚えた。モリム(molim)がどうぞ(please)に相当するようだ。学会会場であるホテルのルームナンバー382のトリ,オサム,ドバ(tri,osam,dva)も陽気な従業員に教わった。osamは日本人名のようで面白い。現地の食べ物はやや塩味がきいていたがおいしかった。こと印象を残したのは海産物,炭酸入りヨーグルト,プラムやサクランボの酢漬けである。

国際会議や短期のワークショップは海外体験として比較的挑戦しやすいものではないだろうか。なればこそ,学徒ならではの好奇心を発揮して,日本人があまり行かない国に敢えて行ってみるのも一興かもしれない。本出張は,東京大学ライフイノベーション・リーディング大学院(GPLLI)および日本学術振興会の支援を受けて行った。

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古代ローマ時代に建てられたディオクレティアヌス宮殿には町が形成され,地元の人や観光客でにぎわっていた (スプリト)

PROFILE

2012年 東京大学理学部生物学科 卒業
2014年 東京大学大学院理学系研究科
生物科学専攻修士課程 修了
現在 同博士課程在籍
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