玉原国際セミナーハウスと特殊多様体研究集会

寺杣 友秀(数理科学研究科数理科学専攻 教授/数学科 兼担)

東京大学玉原国際セミナーハウスは2005年から数理科学研究科によって運営されているセミナーハウスである。湿原でも有名な玉原は駒場から2 時間半ほどのところに位置し,自然が豊かな群馬県の山の中にある。山の中でもセミナーハウスには文献検索に必要なインターネット環境が充実している。また数学以外のセミナーでも利用可能だ。セミナーハウスが開かれている5月から10月の間,数理科学研究科のさまざまな分野のグループにより毎年多くの研究集会が開かれている。

その中の一つである,「特殊多様体研究集会」はセミナーハウス設立の次の年から,毎年開催されている。代数幾何や複素多様体のなかでも特殊多様体や微分方程式をテーマとするこの研究集会は,研究者間の情報交換の場所として,問題提起の機会として,役割を果たしてきた。また大学院生の教育の場としても機能している。

数学の研究がどのように行われているかは千差万別である。日々の研究においてもっとも基本的な活動は,論文を読むこと,アイデアを煮詰めること,計算をすることなどだが,人の話を聞くことや,自分の考えを人に話すことも,大変重要な要素になる。数学の世界では様々な研究集会が,各地の大学などで頻繁に行われるが,そういった集会に参加することは,研究上欠くことのできない活動である。ただ,1時間聞いても,通り一遍の講演ではその本質がつかめないことも多々ある。

ドイツにオーベル・フォルファッハ研究所(DasMathematisches Forschungsinstitut Oberwolfach)というシュバルツ・バルトの山中にある研究所がある。そこでは,個別のテーマについての一週間くらいのセミナーが常に行われている。山の中ということもあり,参加者はすべて泊まり込みで,会期中は全員寝食をともにする。それが研究者間の化学反応をもたらしているところが,大学などで行われる通常の研究集会と大きく異なるところだ。

玉原国際セミナーハウスも,その様な環境が数学の研究において重要だ,といった考え方から開かれた。オーベル・フォルファッハ研究所の様な場所が研究環境として機能する理由の一つとして,数学という学問は実験道具がなくても,黒板とチョークがあれば成り立つ,という事情もある。「特殊多様体研究集会」でテーマとして扱っている代数幾何,複素多様体論と関連した微分方程式などについて述べよう。理学工学で使われる特殊関数,三角関数,対数関数あるいは指数関数は,比較的簡単な代数的な微分方程式で記述されている。その代表として挙げられるのがガウスの超幾何関数である。代数的な微分方程式から導かれるこれらの関数を扱おうとするとき,微分方程式の定義域を幾何学的にとらえることがとても重要になる。そういった幾何学的な対象は,現代数学では代数多様体,複素多様体と呼ばれている。現在は多様体自身が体系的に研究されるようにもなった。ホッジ構造や周期写像などの理論的基礎付けが充実してきて,さらに計算機の性能も上がってきたことで,以前はなかなか手のつけられなかった問題にも取り組めるようになってきている。現代数学がうまく利用できる問題も多くある。「特殊多様体研究集会」では関連している代数幾何,微分方程式,計算機の専門家が参加し,毎年やりとりされている話題は研究者の交流を深め,多くの研究のきっかけになっている。

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玉原セミナーハウスの秋

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