メダカの仲間たち -ゲノム再編と種分化研究のモデル-

成瀬 清(生物科学専攻)

図1.Xenopoecilus sarasinorum

図2.Horaichthys setnai 「メダカの生物学と品種」(佑学社)より

メダカ(Oryzias latipes)の含まれるメダカ属はアジア固有の属であり、現在19種ほどが報告されている。メダカ属が含まれるAdrianichthys科にはそのほかにHoraichthys, Adrianichthys, Xenopoecilusの3属が含まれている。これらの種は淡水から海水まで様々な環境に適応しているとともに、生殖様式や性決定等それぞれ異なった生活様式を発達させている。

メダカ属魚類をもちいた種分化・進化研究は核型分析を用いて開始されたが、現在ではミトコンドリアDNA配列による分子系統学的研究もすすみ、その系統関係もほぼ明らかとなっている。これらの解析からメダカとその仲間は大きく3つのグループ(両腕型、単腕型、染色体融合型)に分かれることが示された。メダカはそのなかでも両腕型グループに属する。このグループにはハイナンメダカ、ルソンメダカ、メコンメダカの3種も含まれる。メダカの最も近縁な姉妹群はハイナンメダカとルソンメダカである。ハイナンメダカとルソンメダカは形態的にも、遺伝子配列からもはっきりと区別することができる別種であるが、種間交配が可能であり、戻し交配もできる。これを用いて、我々と新潟大学のグループは、ハイナン/ルソンメダカの遺伝子地図の作成をおこなっている。この研究からルソンメダカの性染色体がメダカとは異なることが示唆されるなど、いくつかの興味深い結果をすでに得ている。染色体融合グループはスラベシ島(インドネシア)の4つの湖を中心に分布している。Adrianichthys属, Xenopoecilus属も同じ湖に分布しており、スラベシ島はAdrianichthys科の種分化を考える上で最も重要な地域である。Xenopoecilus sarasinorum(図1)は産卵後、孵化まで雌が腹部に卵を付着させ保護するという特異な生殖様式をとる。これは卵胎生と卵生の中間的段階を想像させる。一方、インド南部に分布するHoraichthys setnai(図2)の雄は卵胎生魚類の雄が持つgonopodiumという体内受精をおこなう器官を持つにもかかわらず、雌は産卵をおこない、いわゆる卵胎生の生殖様式をとらない。メダカ属魚類は一般には淡水性であり、基本的には淡水で発生が進行する。しかし単腕型グループに属するジャワメダカでは海水中で受精がおこなわれ、海水中で発生がすすむ。成熟個体もマングローブ林をすみかにしており、その生態はまさに海産魚である。

メダカでは現在、高密度遺伝子地図、BACライブラリーの作成等、実験基盤整備が進み、数年内には完全なゲノムシークエンスも発表されようとしている。これらの研究によりメダカの生物学は新たな局面を迎える。そのなかで比較ゲノムに基づくゲノム再編、種分化機構の分子レベルの理解は重要な研究分野の一つになると考えられる。メダカでは遺伝子導入技術や突然変異誘発など実験的手法も充実しており、比較ゲノムによって明らかになった遺伝子レベルの変化を実験的に確かめることも可能である。比較ゲノムと実験生物学的手法を組み合わせた新たな展開が期待される。