ヒャクニチソウ

福田裕穂(生物科学専攻)

図1 道管細胞の核分解は分解開始から18分以内に終了する。

私たちの研究室では、ヒャクニチソウ(百日草:キク科)を主要な実験材料としている。「日」が名につく植物は、ヒャクニチソウの他、ニチニチソウ(日々草:キョウチクトウ科)、センニチコウ/センニチソウ(千日紅/千日草:ヒユ科)など、いくつかある。サルスベリ(ミソハギ科)は百日紅とも書かれる。こうした名前は、花保ちの印象からつけられていて、実際の花の寿命が1日、100日、1000日というわけではない。ヒャクニチソウやセンニチソウは花が枯れた後も花の色が美しく残るので、その名が付いている。このようなわけで、これらの植物は名前に「日」が入るとはいえ、分類的には必ずしも近くはない。ただ困ったことに、この「日」は印象的らしく、私たちの実験材料に「日」がつくことは覚えてもらっているのだが、研究者仲間に、しばしばニチニチソウと間違えられる。

ヒャクニチソウはメキシコ原産で、夏にピンク、黄色などの花を咲かせる。花壇にもよく植えられているので、ご覧になった方も多いであろう。それでは、なぜ、ヒャクニチソウを実験に使うのか。これがたとえば、ダイズとかトウモロコシなどであれば、作物として重要だからとなるが、そうではないし、花卉としてもそれほど儲けになりそうな植物ではない。理由は簡単である。葉の細胞が簡単にバラバラになるからである。乳棒と乳鉢、あるいはジューサーで簡単に葉の細胞を単離できるのである。一部の植物、たとえばアスパラガスなどを除いて、他の植物ではこれができない。

私たちは、この単離した葉肉単細胞を単細胞のままでまったく別の道管細胞に分化させてしまうという実験系を構築し、植物のもつ何にでも分化できるという能力の分子的な実体を研究しているのである。この実験系は単細胞を材料にしているのでいろいろな処理が簡単にできるし、細胞をずっと連続して観察し、その分化の進行を追うことができる(図1)。また、分化の進行が正確であることを利用して、最近では理化学研究所の植物科学研究センターと共同で、約9000遺伝子の分化過程での発現動態を明らかにすることに成功した。ではこの実験材料は理想的で万能か。残念ながら、ヒャクニチソウは遺伝学的解析が難しい。そこで私たちは、全ゲノム配列が明らかになり遺伝学的解析の容易なシロイヌナズナも同時に実験材料として使い、得られる情報をキャッチボールしながら、分化の謎にチャレンジしているのである。