ミツバチ

久保健雄(生物科学専攻)

今回は、私たちの実験材料に用いております、セイヨウミツバチ(Apis mellifera L.)について紹介させていただきます。分類上の位置付けは、動物界-節足動物門-昆虫綱-ハチ目-ミツバチ科-ミツバチApis属-mellifera種で、コロニーを作って生活する社会性昆虫です。ヨーロッパ原産ですが、養蜂のため世界中に、日本には明治初期に導入されて野生化し、最も普通に見られるミツバチです(写真は、防護服を着て巣箱を観察する大学院生と、巣箱に止まった働き蜂)。日本を含めたアジアには、この他に近縁のトウヨウミツバチ(Apis cerana)が棲息します。1つのコロニーは、1匹の女王蜂と数千から数万の働き蜂からなり、春から秋にかけて数百から数千の雄蜂が現れます。

注目される生物学的特徴は、次の通りです。(1)雌の成虫が、幼虫時の生育環境によって、女王蜂と働き蜂にカースト分化し、働き蜂は自らの子孫は残さず、女王蜂が生んだ子供(妹)の世話をします。こうした働き蜂の行動は、利他行動と呼ばれます。(2)働き蜂は羽化後の日齢とともに、巣の掃除から育児(頭部分泌腺から分泌されるローヤルゼリーを幼虫に与える)、門番(巣の入口に陣取り、天敵からコロニーを防衛する)、採餌(花蜜や花粉を集め、花蜜をハチミツに加工する)へと分業します。(3)餌を全て花に頼り、C源を花蜜、N源を花粉に求める偏栄養の昆虫です。(4)雌の産卵管が変形して針になっており、敵に針を刺して毒液を送り込むという、激しい攻撃行動を示します。刺されると痛いだけでなく、しばしばアナフィラキシーを起こして危険なので、厳重な注意が必要です。(5)花蜜を集めて帰巣した働き蜂は、フリッシュの研究で有名な8字ダンスにより、仲間に花の位置を教えます。(6)ハチ目は昆虫の中でも特に、視覚情報処理能力が発達していると考えられています。

このようにカースト分化や齢差分業、利他行動、攻撃性、記号的言語、視覚情報処理など、他のモデル生物には見られない多彩な生命現象が魅力です。私たちは、こうしたミツバチの高次行動を司る遺伝子の候補として、脳の高次中枢で領野選択的に発現する遺伝子や、行動にともなって脳で発現が変化する遺伝子の解析を進めています。来年中にはゲノム計画が完了する予定であり、ミツバチが次世代のモデル生物になる日も、そう遠くないかも知れません。