膨大な生物データから,生命のシステムを解く

程 久美子(生物化学専攻・生物情報科学科兼担 准教授)

図1

(左上より時計回りに)ウェット実習風景,ドライ実習風景,演習室,講義風景

図2

2011年度 生物情報科学科カリキュラム

拡大画像

生物とは限りなく複雑であるが,その営みはひじょうに緻密な制御を受けていることが,次々と明らかになってきている。そして,予想もできない,おどろくべき発見はつきることはない。近年の生命科学においては,次世代型シークエンサーや大型計算機などが精力的に開発されたことにより,生命現象をつかさどる遺伝子やその産物,タンパク質相互作用によるシグナル伝達,さらには個体の表現型や,より高度な生命現象に関わる膨大な情報を一瞬のうちに取得することが可能な時代になりつつある。このような時代の流れに合致した最先端の研究は,これまでになかった視点から生命現象を理解するための切り口となるであろう。生物情報科学は,実験科学(ウェット)と情報科学(ドライ)が融合した新しい学問分野である。大規模な生物データを計算機を利用して情報処理することによって,新しい視点から生命の本質に迫ろうとするものであり,その発展は生命体という高度なシステムを解くことを可能とする。

生物情報科学科は,2007年4月に設立されたばかりの,理学部でもっとも若い学科であり,2011年3月に第一期生が卒業した。生物情報科学科のカリキュラムは,ウェットとドライの基礎を学び,その上で,それらの融合科目である生物情報科学を学修するように構成されている。このような生物情報科学の本格的な学部教育は,国内でも初めてである。第一期の卒業生は,全員が学内の大学院へ進学したが,学部教育からウェットとドライの両方を修得した初めての人材であり,大学院においても独自性の高い研究が展開されることが期待される。生物情報科学科では,このような最先端生命科学において,既存の枠にとらわれない,独自の思考や新しい発想に基づいた研究が遂行できる人材を育成することを目指しており,将来的には世界の最前線で活躍することを期待している。

進学振り分け

生物情報科学科の学生定員は10名である。第一段階においては理科全類から6名と全科類から1名,第二段階では理科全類から3名を受け入れる。

学年ごとのカリキュラム概要

【駒場4学期】

生物情報科学を学ぶための準備期間として,ウェットとドライのそれぞれの基礎が中心となる期間である。また,情報科学基礎実験で計算機の基本を学ぶ。並行して,生物情報科学科が独自に開講する生物情報学基礎論I・IIにより,生物情報科学の序論を学ぶ。

【3年生】

進学して3年生になると,生物情報科学の専門的講義が開始する。ほとんどの講義は午前中に行い,午後は演習・実験を行う。夏学期の月曜午後は情報科学実験を情報科学科の学生といっしょに履修し,プログラミングを学ぶ。火~金曜日の午後は生物化学実験/生命科学基礎実験を行う。前半は生物化学科の教員が担当し,分子生物学・生化学の基礎的技術を修得する。後半は生物情報科学科の教員が担当し,ハイスループットな計測機器類を用いた実習を行う。冬学期の火~金曜日の午後は情報基礎実験で,計算機を用いた生物情報科学の演習を行う。

【4年生】

4年生になると,卒業研究(生物情報科学特別演習・実験I・II)が始まる。学生は研究室へ配属され,実際の研究活動にふれることになる。また,夏学期の月曜午後には,生物情報科学特別講義が開講されている。この科目では,進捗が早い生物情報科学研究の最先端研究について,学内外の専門家を招き,まとまった講義を受けることができる。

特色あるカリキュラム

生命科学基礎実験

生命科学基礎実験では, DNAマイクロアレイ,質量分析機,次世代型シークエンサーなどのハイテク機器を用いた実験と,その結果をバイオインフォマティクスを用いて解析する実習を行う。さらに,生化学反応を数理的に解析するシミュレーション実習も行う。いずれも,他大学には類をみない先端的実習である。この実習を通して,自ら得た大量の生物データを計算機を用いて解析するという生物情報科学研究を初めて体験することができるため,学生はひじょうに興味をもつようである。

生物情報科学特別演習・実験I・II

いわゆる卒業研究である。2011年度は,夏学期の初めに,学生の希望を取り入れて, 3つの研究室を2週間ずつ見学してから,特定の研究室へ配属となった。配属された研究室では, 1年近くをかけて1つの研究を継続し,卒業論文としてまとめることを体験する。その間,研究の進捗状況の報告や英文雑誌の論文紹介などによってプレゼンテーションのノウハウを身につける。2010年度末には卒業研究発表会が行われ, 4年生だけでなく,教員や学生も多数参加して活発な意見交換が行われ,たいへん盛況であった。

学科の教員構成と大学院進学

生物情報科学は生命科学と情報科学が融合した学際領域に位置する学問分野であり,その関連分野を網羅するため,専任教員は理学系研究科生物化学専攻,新領域創成科学研究科情報生命科学専攻,情報理工学系研究科コンピュータ科学専攻のいずれかに所属している。生物情報科学科の卒業生は,それぞれの興味や適性に応じた進学先を,幅広い分野から選択することができる。