原始太陽系の姿を追う~隕石からのアプローチ~

~杉浦 直治教授(地球惑星科学専攻)~

聞き手:三宅 亮介(化学専攻博士課程1年)

隕石からみなさんは何を連想するでしょうか? 宇宙,流れ星,クレーターなどといったところでしょうか。数年に一度,隕石の落下がニュースになりますが,知っているようで知らない隕石。地球上に隕石が約25,000個もあること知ってましたか?実は隕石, 原始太陽系や宇宙の誕生に関してとても大切な情報を持っています。

とは言っても,もちろん原始太陽系の姿を探るという壮大なテーマが,1つの研究から一朝一夕に明らかになるわけではありません。いろんな角度から,地道に少しずつ可能性を探っていくことが大切になってきます(これはどこの分野でも共通ですよね)。さて,原始太陽系の姿を解き明かす中で,隕石からは,どのような情報が,どの程度,どういう解析法によって得られるのでしょうか?

第12回目の研究室探訪は,隕石から太陽系の起源について研究されている地球惑星科学専攻の杉浦先生を訪ね,隕石にまつわるお話をお聞かせいただきました。

隕石=太陽系の謎解き!? -研究のきっかけ-

三宅:太陽系の起源を探るのに,他にいろいろと方法がある中で,どうして隕石を研究対象にされたのですか?

杉浦:元々惑星とか宇宙のことに興味があって,その辺のテーマに手をつけたいなと思っていたんだけども,どこから手をつけていいかわからなかったんです。大学院に入るときに,なんかある程度これがやりたいというテーマを指導教官に言わなければならなくて,何にしようかなと思っていろいろ悩んでいた時に,本を見てると隕石から宇宙の起源がわかるってことがちらっと書いてあって,それを見て,これにしようかと。

三宅:大学院の頃からずっと太陽系を探る研究を続けられているんですか?

杉浦:ある意味そうですね。まあ大学院の頃のテーマは, 直接に太陽系の起源ではなくて隕石の残留磁化についてだったんですが,興味としてはそういうところにあったわけですね。

隕石から太陽系の起源を探る

図1:太陽系の形成についての外観(これまでに分かっていることのまとめ)

三宅:なぜ隕石から宇宙や太陽系の起源がわかるのですか?

杉浦:例えば地球の岩石を調べて太陽系のできたときの姿はわからないですよね。それは地球の中にはたくさんの熱源があって,地球を溶かしたりいろんなことをしてしまうから,当時の様子を覚えてないわけです。隕石みたいな小さな天体は多少熱源を持っていても表面からどんどん熱が逃げてしまい,すぐに冷えてしまう。すると45億年前にはすでに冷えて,その後は何の変化もしていない。つまり昔の状態を維持しているので隕石から昔のことがよくわかるのです。熱源の量は体積に比例するので半径の3乗に比例しますよね。熱が逃げていくのは表面からなので半径の2乗に比例する。冷え方は半径の2乗,熱源は半径の3乗で効いてくるでしょ。だから小さな天体ほど昔のことを覚えてるわけですよ。

三宅:そもそも太陽系の起源を探るのにどのようなアプローチの仕方がありますか? その中で隕石を用いるメリットはなんですか?

杉浦:原始太陽系の研究には, 大体3つのアプローチがあって,まず隕石を見るのが一つだよね。二つ目は,太陽があってその周りに原始太陽系星雲というのが取り巻いていて,そういうものが時間とともにどう進化するのかということを古典力学的に解くっていう理論的なアプローチがある。最後は天文学的なアプローチで,実際に現在星が作られている星間星雲を観察して,星とその周りの惑星系が構築される様子を探るんです。例えば,星雲から発せられる赤外線などから惑星ができつつあることを示すシグナルを観測すればいいですよね。このような3つのアプローチを総合して,どうやって太陽系ができるのかっていうことを研究しているわけです。でもやっぱり隕石でなければわからないことは結構あるんです。例えば隕石の主成分はコンドルールと言って,知らないかな? 隕石の中には丸い形状をしたケイ酸塩がいったん溶けてから急冷したものがいっぱいあるんだけども, こういうものをコンドルールと言います。コンドルールのようなものは物理的描像では作りだせないんです。それにコンドルールは短時間(1時間ぐらい)で作られてしまうので,天文学的観測で直接見るのは難しいのです。だからやっぱり実際にちゃんと物的証拠を見るというところが大事だろうと考えているんですよ。

三宅:原始太陽系の姿を探る上で, そのコンドルールはどういった情報を持っているんですか?

杉浦:隕石の主要構成成分であるコンドルールは急な加熱の後で,急に冷えてできたと考えられます。どのようなプロセスでできたかはわかっていないのですが,このプロセスは隕石が形成されたときに起こったと考えられます。この点でコンドルールは太陽系で天体がどのようにできたのかについての重要な情報を持っていると言えます。

原始太陽系は不均一だった?

図2:隕石の表面の電子顕微鏡写真(表面をカットして研磨してある)。今回は太陽系初期のままの粒子が残っていることが多い石質隕石を調べている。

三宅:そこで,隕石を選ばれたわけですね。先生は隕石の同位体(元素の原子核を形成する陽子の数が同じで,中性子の数が異なるもの)に注目されて,研究されておられるようですが,同位体から,太陽系や宇宙に関するどのようなことが,どのようにわかるのか教えていただきたいと思います。例えば,先生は窒素の同位体比から原始の太陽系が不均一であるということを示されてますよね。

まずこの研究についてご説明いただけますか?

杉浦:わかりました。例えば隕石にはいろんな種類のものがありますが, 同じ種類の隕石でも, 安定同位体比が違うことがあるんですよ。同位体比が異なる理由を探ろうと,隕石内および隕石間で窒素の同位体比を比較したところ, 原始太陽系星雲の中では太陽系の原料となった結晶やその集合体が実はしっかり混ざっていなかった可能性が示されたんですよ。

三宅:これはどのようにして,わかったことなんですか?

杉浦:測定としては,隕石を細かく見ていくんですね。図2は隕石をカットしてその表面を研磨してから電子顕微鏡で見た図です。図の中に円形に近い構造(太陽系の原料となった結晶等の集まりと考えられる)があるのは見えるでしょ?(反射電子顕微鏡では,質量数が重い元素の方が白く見え, 逆に軽い元素は黒く見える。この場合, 黒い部分は有機物が含まれることを示す。)この数十ミクロンの円形構造の中身を二次イオン質量分析計で分析したんです。すると,窒素の同位体比が標準的な窒素の同位体比に比べ違いがあったのです。我々の業界ではパーミル(permil:千分率(100%の一つ下))という単位で測りますが,基準となる地球大気の窒素に対する窒素15(15N)の増加分(Δ15N)が2500パーミルという値が出たので,窒素の15が3.5倍もあるということですね。

三宅:隕石の種類によって, 窒素15の存在比にそんな大きな差が出るんですね。ということはおそらく太陽系ができた時点ですでに同位体分布に偏りがあったということになるんですか?

杉浦:その辺は微妙ですね。この隕石の中に見られる大きな円形のものがいつ形成されたかはわかってないけれど,僕の考えとしてはこのようなものが,同位体の異常のある状態で太陽系が形成するときに太陽系に入り込んだと思っています。太陽系が形成されたときに,小さな1ミクロン以下の微少結晶は均一に混ざっていたと考えられるのですが,数十ミクロン(1ミクロン= 10-6 m, 図では30ミクロン)の大きさのものは混ざっていなかったのではと考えています。

そもそも2500パーミルというような大きな同位体比異常のある物が生じた理由としては,暗黒星雲などの温度の低い星間空間では,同位体が気相と固相との間でやりとりされて同位体比が変化するという反応が起きるせいだと思われています。

三宅:先生は隕石から原始太陽系の形成について一つの重要な可能性を示されたわけですね。実はここにインタビューにくるまで,太陽系の起源がかなり明らかになっているというイメージを持っていたのですが,いろんな要素を検証しなければならないので,まだまだ原始太陽系の姿ははっきりしないことが多いのですね。

杉浦:そうですね,ある種の隕石にはこういうのが入っているんだけども,別の隕石には見られないとか,まだまだいろんな不思議なことがあるので。

原始太陽系のイベントの年代を探る

図3:放射性同位体の壊変を用いた年代測定の概念図

三宅:窒素のような安定同位体とは異なり不安定な同位体(放射性元素と呼ばれ,時間とともに他の元素へと変化していく)を使って,よく原始太陽系で起こったいろんな出来事の年代について研究なされてますよね。この研究についてもご説明いただけますか?

杉浦:まずは,この研究で使う年代測定法の一般的な説明からしましょうか。

代表的なウランと鉛を利用したもので説明します。ウラン(U)と鉛(Pb)の存在比を比べてやると, ずっと昔からあるものは,ウランが鉛に壊変してしまうので,鉛がいっぱいになる。元の親核種(崩壊前の放射性同位体)になっているウランと娘核種(崩壊後の放射性同位体)となる鉛の量を比べてやると,親核種が多いほど(図3でNa>Nbと同意)新しい(Ta<Tb)と, そういう原理です。

三宅:そうすると何年前のものかがわかるってことですね。

杉浦:そうですね,ただし今は太陽系がどのようにできたかが知りたいわけです。太陽系が形成され始めてから,現在の姿になるまでのいろんなイベントが起こったのは,だいたいできてから数百万年の間なんです。45億年前のわずかな時間差(例えば45億100万年か45億年前か)を正確に決めようと思うと,そんなに昔のことは正確に決めにくいですよね。半分に減るまでの時間を半減期と言うのだけれども,年代測定法では,この半減期と同じくらいの時間の間隔が一番測定しやすいのです。そうするとウラン・鉛系(半減期:ウラン238→鉛206;45億年,ウラン235→鉛207; 7億年:元素の後に示す数字は,質量数(陽子と中性子の数の和))ではうーんと昔のわずかな時間差を測定することは難しい。そこで,ウラン・鉛系でなくて,半減期がちょうど数百万年のタイムスケールのいわゆる消滅核種っていうものを使うんです。その消滅核種って名前からわかるように,現在ではもう全部なくなっちゃっていて親核種がどれだけあったかっていうことはわからないので,絶対年代(現在から計った年代)はわからない欠点はあります。けれども,この消滅核種を使うと非常に短い時間間隔をちゃんと計ることができます。

消滅核種を使う年代測定法

図4. Hf→Wの崩壊を利用した地球のコア形成年代の決定法(概念図)。Hf:ハフニュウムの放射性同位体,W:タングステンの安定同位体,W*:Hfから壊変したタングステン同位体

三宅:イベントが起こった当時の親核種と娘核種の割合がわからないと,年代はわからないですよね? 既になくなっている消滅核種を用いた場合,この点はどうするのですか?

杉浦:最も一般的な方法がアイソクロン法です。少し難しいので詳しく説明しまー記事の一番後ろを読んでください),天体が形成されるなどのイベントが起こった後(同位体の行き来がなくなり閉鎖系になるので),天体の中でそれまで一定だった安定同位体と放射壊変によってできる同位体の比が変化することを利用してます。その他にも親核種と娘核種の性質の違いを利用した方法などもあります。

三宅:では, 消滅核種を用いた年代測定からある時点からの時間経過がわかるとして,どうやって太陽系初期のイベントを見ていることを確認するのですか?

杉浦:それはウラン・鉛法等で年代のはっきりした隕石との比較から年代を判断するんです。たとえばウラン・鉛法で45億年とわかっている隕石と比べて,消滅核種から300万年新しいとわかったとします。この場合,調べた隕石は45億300万年前にできたものと判断できますよね。

三宅:どうやって年代決定に必要な当時の消滅核種の存在比を見積もっているのか具体的な例を挙げていただけますか?

杉浦:そうですね,年代の決定について最近の話題で地球のコアがいつできたかっていう問題を例にして説明しましょう(図4)。これは親核種と娘核種の性質の違いによって,地球のコア形成というイベントの痕跡が残っているいい例です。ここではハフニウム(Hf)の182という消滅核種(親核種)が,タングステン(W)の182(娘核種)に壊変することを使うのですが,タングステンは金属と仲のいい元素なので,地球の場合だと地球のコアに入ってしまう。ハフニウムの場合はコアに入らないで,マントルに残るっていう性質がある。だから,いつコアができたかによってマントルに残るタングステン182の量が変わってきますよね。そこで,実際に地球のマントルと隕石とで,タングステン182の量を比較して,地球のコアがいつできたかが決定できる。こうして,一番古い隕石ができてから3000万年くらいたったときには,もう地球のコアができていたっていうことがわかります。

三宅:要は,コアが形成された後に残っていたハフニュウム182の量がマントル層に存在しているタングステン182の量から見積もれるってわけですか?

杉浦:そういうことです。実際にはタングステンの含有量が試料によって違っていて,ハフニュウム182の量は見積もれないため,基準となる隕石とタングステン182とそれ以外の同位体との比を比較して年代決定を行っています。

原始太陽系のこれから

三宅:今日お話いただいた研究結果の積み重ねによって原始太陽系の姿は現在どれくらい明らかになっているんですか?

杉浦:原始太陽系の研究全体を通して一言で言うのは難しいので,今回お話しした太陽系がどのようにできたかという形成プロセスの研究と太陽系で起こったイベントの年代を探る年代学を例にお話しします。年代学については,コンドルールの形成年代なども明らかになりつつあり,あと数年でかなりはっきりすると思います。しかし太陽系の形成プロセスについてはまだまだわかっていません。いろいろな議論がなされていますが,みんなどこに突破口があるかわからなくて迷っている状態だと思います。個人的には,コンドルールにならなかった太陽系のもととなる物質を発見することで,解決の糸口になればと思っています。

三宅:隕石には,まだ知られていない情報がいっぱい詰まってそうですからね。ところで,太陽系の起源を探ること以外に隕石からわかることはあるんですか?

杉浦:隕石には太陽系のもととなった物質(超新星や赤色巨星でできた,太陽系ができる前から存在していた小さな結晶のこと。例えばダイヤモンド,シリコンカーバイド,グラファイトなどが多い。)が紛れ込んでいるんですが,これを分析すると,どういう星でできたものであるかとか,その星でどのような核合成反応が起こっていたかがわかる。こういうデータをたくさん積み重ねていくと, 宇宙全体がどのように進化してきたかそういうことまでわかるだろうと…。

三宅:いつまでもわからないところが尽きなさそうですね。

杉浦:最後までわからないところが残ると困るんだけど,おもしろいことはたくさんできるでしょうね(笑)。

研究に使う隕石はどうやって探すのか?

三宅:隕石ってどういうものを使っているんですか?地球上に落ちているものでも,昔からある隕石を使っているのか,それとも落ちてくるのを待っているのか?そういったところはどうなんでしょうか?

杉浦:なかなか落ちてこないでしょうね(笑)。日本でも回収されるのは10年に2,3個でしょうね。なかなか待っていても取ってこられないんで,どこかで拾ってくることになります。隕石はどこにでも平等に降ってきてるんですが,日本みたいな雨の多いところは,あっという間に風化しちゃうんですよ。100年もするともうぼろぼろですね。研究には使えません。だけど乾いている場所,例えば砂漠とか南極とかでは,隕石がいつまでたっても風化しないから,そういうところで集める。隕石を研究するときは,収集された隕石が保管されている博物館にリクエストを出してもらってくるっていうのが一般的なスタイルなのですが,最近の日本の場合は,南極の観測隊が探しに行っていっぱい取って帰って来たものがあるので,そこからももらうことができます。日本の極地研(国立極地研究所)がやっているんだけど,これまでに収集された隕石がおそらく一万個以上あるんですよ。

三宅:えっ,そんなにあるんですか?隕石って!

杉浦:確か日本は世界で一番隕石を持っているんですよ。

三宅:それは驚きですね。南極では長い間の隕石の蓄積があって,かつ状態がいい隕石が見つけやすいということですね。

杉浦:はい,長年の蓄積があるというのと,見つけやすいっていうことですね。その他にも最近ではサハラ砂漠などの砂漠地帯に行って,隕石を買ってくる人がいます。

隕石は月や火星からも飛んでくる!?

三宅:収集する際,ぱっと見て隕石だとすぐにわかるものなんですか?

杉浦:ええ,ある程度の経験があればすぐにわかります。普通の隕石は大気圏を通過したときに表面が溶けて,ペロッと黒いガラス状になっているのですぐにわかる。いくつか特殊な種類の隕石は素人には比較的判断が難しい。その中でも月の隕石であれば,月のアポロ計画で持って帰ってきた月の石と比較することで判断がつきます。一番わからないのが火星の隕石なんです。これは地球の石と似ているし,大気圏で溶けたときにも,そんなに顕著な溶けたガラス状のものが見えないことがあって,結構難しいですね。それでも,専門家が見ればなんとかわかりますね。それで落ちている場所が南極の場合は,氷の上にあれば間違いなく隕石だし,砂漠の場合でも,普通の岩石とは違っているのがかなり顕著だから,見つかればかなりの確率で隕石ってことになるらしいですね。

三宅:えっ,火星や月からの隕石って飛んでくるのですか?

杉浦:飛んでくるのですよ(笑)。

三宅:隕石はなぜ飛んでくるんですか?火星の場合は火山の噴火だったりするんですか?

杉浦:火星の場合も火山の爆発で飛んでくるわけではないですよ。僕はよく知らないんですが,火山ではちょっと力が足らなくて,やっぱり隕石の衝突などのインパクトでもって,こうドカーンとやらないと無理ですね。それに実際にあれだけの大きさの天体から飛び出すのに,単にぶつけるだけでいいのかはわからない。今のところ,火星の場合は地表の下に水があって,宇宙から飛んできた隕石などで地表が衝撃を受けると,この水が加熱されて水蒸気になり隕石として飛び出す助けになっているって考えられているんじゃないかな。

実は歴史的にいうと火星からの隕石があるってことが月の隕石より先にわかったんですよ。先にわかったって言っても,実際にちゃんと確認されたのは,1970年代の終わり頃の火星のバイキング計画の頃です。これを機に,火星の大気の組成がやっぱり地球と違うことがわかった。たとえば,窒素の同位体の比が地球と全然違う。しかもその同位体比は,隕石の中でも特殊で,ある種の隕石にも同じ特徴があった。それで火星からの隕石だってわかったんですよ。その頃はまだ月から飛んでくるという事実は確認されていなかったのですが,火星から飛んでくるならば,当然月からも飛んでくる,ということで探したら見つかったわけです。もっとも,歴史的には隕石学が始まった最初の頃に,隕石がどこから飛んでくるかは当然非常に疑問で,一番近い月から来るに違いないという論争があったんですよ。

三宅:そうなんですか?おもしろいですね。

杉浦:その論争の決着がどうついたのかは,よく知らないんですけども,最初は実はそう思ってたわけですね。

三宅:そういえば,小惑星帯からなぜ隕石となって飛んでくるのかということは,素人からすると不思議ですからね。

杉浦:それはね,専門家にとってもずっと不思議なことだったんです。今のところ,小惑星帯の間に軌道が不安定になる所があるため,そこに近づいた天体は軌道を逸れて,地球に落ちてくると考えられています。

隕石の分類が重要? - 同位体組成比の違い -

三宅:収集された隕石はその後どうなるんですか? すぐに研究室で研究されることになるわけですか?

杉浦:いいえ。同じ隕石でも,由来 (どの小惑星からやってきたか) によって同位体などの組成が全然違うので,まずどこ由来の隕石かをしっかりと分類しないといけません。この作業は私たちがやってもいいことなんですが,時間もかかるので極地研などの収集した機関がやるというのが通常です。この分類にも同位体が役立ちます。

三宅:隕石の種類を同位体の組成比で決めているのですね。そもそも地球と火星の隕石を分類する際の基準になっている同位体比の違いは何に起因するのですか?

杉浦:さっき話したのは,窒素なんだけれども,窒素の主な部分は,地球でも火星でも大気にあるわけです。大気を構成している分子は安定に存在しているかというと,必ずしもそうではなくて,宇宙空間に逃げていくんですよ。窒素の場合14と15の同位体があるんだけど,逃げるときには軽いものから順に逃げていくので(14の方が15より中性子1個分軽いので),14の方が先に逃げていく。どんどん逃がしてやると,大気には15がたくさん残る。火星の場合,15の方が60%たくさん残っているのかな。

三宅:火星と地球の重力の差によっているんですね。

杉浦:火星に強い磁場がないことも効いているはずです。窒素に限らず,水素も確か火星は3倍くらい同位体比が高くなっているのかな。火星隕石はそれが火星から放出されるときに衝撃で火星の大気を取り込むので,窒素や水素の同位体が有力な判断材料になるのです。

三宅:それで,ある隕石が火星から飛んできたか否かは同位体組成だけである程度確認できるんですね?同位体組成をそこまで信用してもよいものなんですか?

杉浦:隕石にいろんな種類があるんだけれども,大体のものは月と火星を除けば小惑星帯から飛んできていると考えられて,それで主に同位体比と化学組成で何十種類に分類されています。それぞれ違う小惑星帯の小惑星から飛んできていると考えられている。その分類の根拠の一番信用のできるのが同位体比です。実際には酸素の同位体比が使えて,これが違えば,まず間違いなく違う所から飛んできている。

三宅:小惑星帯だと酸素の同位体比はいろんな隕石で共通なんですか?

杉浦:微妙に違うんですよ。どうして違うかはあんまりわかっていない。これは大問題なんです。今皆さん一生懸命研究しているところです。一つの仮説としては水が星間空間でできたときにガスと氷の間で酸素の同位体の分別が起きる。そして,同位体比が違うままの氷が,岩石成分と混ざることによって,隕石間で酸素の同位体比に微妙な違いができるという仮説が有力ですが,実はよくわからないんですよ。とにかく酸素の同位体比を手がかりにしていろんな分類ができて,今のところはそれでうまく行っているので,同位体比は信用できると思いますよ。

三宅:そうですね。そして,組成で分類された隕石が研究室にきて研究対象になるわけですね。では最後に先生にとって,隕石の面白さとは?

杉浦:やっぱり,それを分析するとか観察するところで,他人が見たことのないようなものが見えてくる。それが一番面白い気がします。研究って点では,隕石の場合どこでどういう風にできたかってことがほとんどわからないもんだから,研究者一人一人が違うイメージを持っていて,難しいというかおもしろいというかそんなところがありますね。

三宅:今日はどうもありがとうございました。

アイソクロン法について

図5:アイソクロン法の概念図(左)とそれをグラフ化したもの(右)(同位対比の異常はMnを含まない部分を基準に考えている)

アイソクロン法とは,放射性同位体(親核種)から崩壊してできた安定同位体(娘核種)の量から,年代を導きだすための解析法のことです。解析原理の説明の前に,3つの確認事項があります。

  1. ある元素における安定同位体と放射性同位体の比率は,同じ年代では等しいということ。
  2. しかし,(隕石内・隕石間において)元素間の存在比の違いが存在するということ。
  3. (高温)イベントが起こった後は,岩石は閉鎖系になり,放射壊変によって娘核種の量が増えるので,同じ隕石中でも放射性同位体(親核種)を多く含む部位ほど娘核種である元素の同位体比異常が大きくなる。

ということです。Mn-Cr系による年代測定研究を例にとって説明します。Mn(図中○)には53Mn(安定同位体:○)と55Mn(放射性同位体 (消滅核種):● )があり,この測定系では,53Mn(●)が53Cr(★)に壊変することを利用して年代測定をします。太陽系全体での53Mnと55Mnの比及びCrの同位体間の比は,ぞれぞれの年代で一定だったと考えられます。現在では53Mnが53Crに壊変しているので,Crの同位体比率は当時とは異なっています。しかし55Mn(53Mnの量に比例) の含有率とCrの同位体比増加分には比例関係が成り立ちます。次に,この比例関係の傾きは,できた年代が古いほど,多くの53Mnが存在しているため大きくなります。つまり,親核種の同位体である元素の含有率の異なる部位の同位体比増加量をいくつも測定して,55Mn(53Mnの量に比例) の含有率とCrの同位体比増加分の比例定数を求めれば,年代を決定していくことができます(図5参照)。

先生のお気に入り

先生のお気に入りの写真を見せて頂きました。

隕石のコンドルールの(電子線を照射した際の発光である)カソードルミネッセンスを見た図で,含まれる元素により,発光が異なるので,電子顕微鏡では見にくいコンドルール内の微少結晶構造の成長の様子なども観測できます。