トポロジカル絶縁体

トポロジカル絶縁体

平原 徹(物理学専攻 助教)

トポロジカル絶縁体とは,物質内部(バルク)では絶縁体なのに,その「エッジ」(2次元系なら端,3次元系なら表面)にスピン偏極した金属状態が生じている物質である。従来の絶縁体,半導体,金属という分類の枠に当てはまらない新物質として注目を集めている。

トポロジー(位相幾何学)とは,もの(図形)のつながり具合を表す数学の概念である。たとえばドーナツとマグカップは同じトポロジーに分類されるが,球はされない。これはドーナツを連続的にマグカップに変形できるが,球にするには穴を埋める必要があるからである。実はこの概念は物理学に適用でき,これまで2次元半導体において低温強磁場下で実現される量子ホール効果が知られていた。この場合,量子化されたホール抵抗の整数値が上記の"トポロジー"に対応する。また量子ホール効果状態では物質内部は絶縁体だがエッジに金属的な状態が必ず存在する。これはエッジがトポロジーの異なる2つの相(真空とバルク)の境界であることに由来し,不純物など乱れの影響を受けない。

いっぽう物質にはスピン軌道相互作用という内部磁場のようなものがある。そこで外部磁場が無くても,スピン軌道相互作用の効果で新たなトポロジカル相が発現することが2005年に予言された。これがトポロジカル絶縁体であり,低温強磁場下でなくても,さらに3次元物質でも実現される。特筆すべきは,強いスピン軌道相互作用とエッジにおける反転対称性の破れにより,バルクは非磁性だがトポロジカル絶縁体の金属的エッジ状態はスピン偏極する点である。その直線的な分散と合わせて"スピン偏極ディラック粒子"とよばれる。

トポロジカル絶縁体は学術・応用両観点から興味深い。たとえば上記のスピン偏極エッジ状態を用いたスピントロニクス応用が期待できる。また磁性体や超伝導体と接合した際には,これまで自然界で存在が確認されていない磁気単極子やマヨラナ粒子が生成でき,量子コンピューターに応用可能と言われている。

物理学専攻ではトポロジカル絶縁体に関して,青木秀夫・小形正男両研究室で理論,長谷川修司研究室で実験の研究に取り組んでいる。