温室効果ガス

小池 真(地球惑星科学専攻 准教授)

温室効果ガスとは,可視波長域を中心とする太陽放射は透過するが,地表や大気から射出された赤外放射を吸収し,地表に向かって再射出する(地表面が受け取る正味の放射エネルギーを増加させる)ことにより地表面付近の温度を高くする作用(いわゆる温室効果)をもつ気体成分の総称である。 ごく簡単な仮定で計算してみると,大気中に温室効果気体が無かった場合の地球の表面温度(放射平衡温度)は,-18℃ 程度になると見積もられる。 このように温室効果ガスは地球の放射収支と気候に対し決定的な役割を果たしているが,その濃度は水蒸気を除けば決して高いものではなく,体積混合比にして二酸化炭素で 0.04 % 程度である。

温室効果ガスのうち人為的に排出されている成分は一般に大気中での寿命が長く(10年程度以上),これらの成分は特に,長寿命温室効果ガスとよばれている。 産業革命以降,排出され続けている長寿命温室効果ガスの大気中濃度の上昇は,気候システムに対し正の放射強制力として働き,地球温暖化の原動力となっている。 京都議定書や気候変動枠組条約では,人為的に排出されている長寿命温室効果ガスである,二酸化炭素(CO2),メタン(CH4),一酸化二窒素(N2O),ハイドロフルオロカーボン(HFC),パーフルオロカーボン(PFC),六フッ化硫黄(SF6)の6種類の気体の排出削減目標が定められている。 特に二酸化炭素は,地表面が射出する赤外放射のスペクトルの最大値付近(波長 15μm 付近)に吸収帯をもち,また次に述べる水蒸気の吸収帯との波長の重なりが少ないため,大きな温室効果をもっている。

いっぽう,最も強い温室効果をもつのは水蒸気(H2O)である。 水蒸気は人為的に排出されているのではないが,温暖化した時には大気中の存在量が増加するため,さまざまなフィードバックを通じて気候に影響を与える。 水蒸気は,二酸化炭素などの増加により放射強制力が働いた場合,気温がどのくらい上昇するかというレスポンス(気候感度)を支配する鍵となる物質のひとつである。

対流圏のオゾン(O3)も人間活動により大気中に直接排出されているわけではないが,人為的に排出された窒素酸化物などから大気中で生成する重要な(かつ短寿命の)温室効果気体である。 また地球の放射バランスや放射強制力という観点からは,温室効果ガス以外に,太陽放射を散乱あるいは吸収して地球を冷却/加熱する効果をもつ,大気中の微粒子(エアロゾル)の存在も重要である。

温室効果ガスやエアロゾルについては,理学系研究科のほか,大気海洋研究所や先端科学技術研究センターにおいて,観測や数値モデル計算などによりさまざまな研究が実施されている。